來編 個人の問題
ヘタに人間社会というものを見せて憧れを抱かせたら可哀想だと思って、
でも、人間で言うなら高校生くらいの感じになった
「人間の世界ってどんなのか見せてよ。映像あるんでしょ?」
って言うから、
「へ~っ!」
って感じで興味深そうに見てたものの、
『人間の世界に行きたい!』
とか、
『どうしてこんなところで私を生んだの!?』
みたいなことは言ってこなかった。
二人にとっては、映像の中の<人間の世界>なんて、ただの<空想の世界>と同じだったらしい。<異世界>みたいなものだったんだ。
だから、
『すごい!』
とか、
『楽しそう!』
とかは思うものの、それは、俺達<普通の人間>が、物語の世界を見て同じように思うのと一緒だったみたいだな。
憧れみたいなものは抱いても、
『何が何でもそこに行きたい!!』
とまで思うようなものじゃなかったって。
「別に、今でも十分、楽しいし。ね、お姉ちゃん?」
「うん。逆に、あんな世界に行って上手く生きられる気がしないから、『楽しそうだな』とは思うけどそんなに行きたいとはね」
そんな風にも言っていた。
だが、この時の二人からは、我慢してる様子も辛抱してる様子もまったくなかったんだ。
本気で、
『物語の中の世界へ行きたい! そっちのが自分の本当の世界だ!!』
みたいに思う人間がそうそう当たり前にはいないように、
これは結局、二人が、
『今の自分に生まれてきて良かった』
と思ってくれてるからだろうな。
だから、二人にとってはほとんど<異世界>のような人間の世界に強く惹かれる必要がなかった。
田舎に生まれた者が、全員、都会に憧れて故郷を捨てるわけじゃないのと同じか。
こんな時、
『都会に憧れないのはおかしい!!』
的なことを言うのもいるらしいが、それは結局、自分に自信がないからだろうなという気がする。自分に自信がないから、誰もが自分と同じでないと不安になるんだろうな。
少なくとも俺自身はそんな不安を感じたことがないから、やっぱり両親が生きてて妹の病気が発症してなかった頃については、
『生まれてきて良かった』
と思えていたんだろうって改めて感じる。
俺が得たこの実感を納得できない人間もいるだろうが、それはあくまで個人の問題なので俺にはどうすることもできない。
苦情はその実感を与えてくれなかった自分の親に言ってくれ。
当人を生んだわけでもない他人にそれを求められても筋違いだからな。
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