來編 それだけの話

「こちらあかり。現在順調に行程を消化中。空路、水路共に異常なし」


ミレニアムファルコン号で先を行くあかりは、そのついでにビアンカ達が通ることになるルートについてもチェックしてくれていた。


「了解。引き続き警戒を厳にせよ」


久利生くりうとのやり取りをこちらも傍受する。


と言うか、軍隊じゃないのに久利生くりうもノリノリだな。クソ真面目なだけじゃなくて、こんな感じにユーモアも解してくれるあたりが彼の魅力なんだと思う。


自分の弱い部分を曝け出してくれた久利生くりうだが、だからと言ってそれにただ甘えるだけじゃない。弱い部分があることを承知した上で、それにきちんと対処しようとしているのが分かる。


コーネリアス号に行くのが辛いといっても、必要があれば自分を抑えてでも行ってみせるのが彼の強さだな。


むしろ、自分の弱さを認められない人間の方が俺は<弱い>と思う。弱いから、


『自分は弱い』


という現実と向き合えないんだろうし。


さりとて、


『自分の弱さとちゃんと向き合え!』


とか言われて、素直に、


『分かりました』


ってできないのも人間ってもんだしな。


こんな分かったようなことを言ってる俺自身、本当に自分の弱さと向き合えてるか?って言われたら、正直、自信はない。


だから、今後もし、久利生くりうが改めて情けないところを見せたって、彼を責めるつもりは毛頭ないよ。むしろそのために、あかり達は互いに互いを支え合うために、一緒に暮らすんだ。


それでいいと俺は思う。


一方的に支えられることが許されるのは、子供のうちだけだ。そして、一方的に支えられることが許される子供のうちに、


『相手を支えるとはどういうことか?』


というのを実地で学ぶんだと思う。自分がやってもらったのを真似ることで、今度は自分が誰かを支えるんだ。


あかり久利生くりうに対してやろうとしてることは、俺があかりに対してやったことだ。


あかりは、俺の子供だが、俺とは別の存在だ。俺にとって都合がいいばかりじゃない。天真爛漫で奔放で無茶なこともする。心配も掛ける。


小さい頃にはほむらあらたさいりんと一緒になって家の中で暴れて、部屋をメチャクチャにしたことも何度もある。


俺にとっては都合いいばかりの存在じゃなかった。


だが、その上で、俺はあかりを受け止めた。それと同じことを、あかりは、久利生くりうに対してしようとしてるだけなんだ。


『有能でイケメンで』っていう自分にとって都合がいい面ばかりじゃない、弱くて脆い一面もあるという部分もひっくるめて久利生くりうを受け止めようとしてるんだ。そして、自分にとって大切な相手を幸せにしようとしてる。


ただただそれだけの話なんだ。


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