來編 細菌性の感染症

きたるは、ひかりあかりと違って完全に野生だから、まさに直感が大事なんだろう。


で、きたるの直感に久利生くりうはどんぴしゃだったということだ。


あかりが惚れるくらいなんだから、その可能性は十分あった。


しんさいにとってはどうやら好みからは外れていたらしかったものの、な。


しんさいが平然としてたから油断してたな。


ああ、そう言えば、きたる達クロコディアには、今の久利生くりうも透明には見えないんだっけ。だからちからはるかをちゃんとクロコディアの雌として認識できて、添い遂げたんだったな。


にしても…なあ……


まあそれはそれとして、きたるが発熱しているということで、保護してもらった。


きたるの方も、久利生くりうに抱きかかえられてるとおとなしくしてた。それどころか、なんだかうっとりとした熱を帯びた眼で見てた気もする。


で、そのまま、治療カプセルに入ってもらった。


さすがに治療カプセルに入れるのは警戒するから、セシリアに鎮静剤を投与してもらって、眠らせてからだったが。


「体内複数個所に炎症が見られます。おそらく細菌性のものでしょう。毒性の強い最近が体内に入り、炎症を起こしているものと推測されます」


基本的には俺達がここで確認した生物の中でもトップクラスに高い免疫を誇るクロコディアだが、それでも時には細菌性の感染症を引き起こすことはある。


一番は加齢による衰えだな。しかし若くても大きな怪我をして体力が落ちていたりするとこういうこともあるようだ。


あと、怪我そのものは大したことなくても、そこにたまたま特に毒性の強い細菌がいたりした場合だな。


たぶん今回のがそれだろう。きたるが大きな怪我をしたような様子はなかったし。


で、詳しく解析すると、やはり、非常に毒性の強い危険な細菌が検出された。俺達人間がそれに感染すると、下手すると半日で死ぬ可能性もあるようなヤバいやつだ。


幸い、治療カプセルを使えば対処できるから、治療せずに放っておいたりでもしない限りは大丈夫なものの、俺達としても用心はしていた。


おそらく、はるかの基になったクロコディアが命を落とした原因もこれだろうなと推測してる。


しかし、治療カプセルの中で眠るきたるの容態は、すぐに安定した。さすがはクロコディア。それに加えて、対処も早かったことで重篤な状態になる前だったからというのもあるか。


ただ、病気もそうだが、そのせいで動きが鈍っていたきたるではあの不定形生物から逃げ切れなかった可能性もある。それを思うと本当に運が良かった。


病気だけなら、ドローンやプローブで見守ってたし、重篤な状態になる前に気付けただろう。そこに運悪くあれに遭遇してしまったってことだな。


「どう? きたるは……?」


俺が光莉ひかり号から出てくると、あかりとビアンカと久利生くりうが待ち構えていて、あかりが代表して訊いてきた。


「ありがとう。あかり達のおかげでもう大丈夫だよ。すでに快方に向かってる」


「よかったぁ…!」


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