來編 一瞬の躊躇
なんにせよとにかく、
ところで、余談ではあるが、<ビアンカ専用ローバー>は、ビアンカ専用と言いながらも実は、イレーネやセシリアやメイフェアなら、リンクすることで運転もできたりする。運転席に着いてハンドルを握る必要も本当はないんだ。ただ、人間の感覚としてそうした方が安心できるからってだけだな。
なので、ビアンカが疲れた時には代わってもらうこともできる。他の人間には運転できない…いや、『できない』わけじゃないな。運転席に<背もたれ>がないから体が支えられなくて運転しにくいだけだ。
ビアンカはローバーに乗るだけで体がほぼ固定されてしまうから、背もたれとかは必要ないし。
ちなみに今回は、前席にビアンカ、
なんてこともありつつ、いつものルートである河に出てきた。もう、最初のそれから数えれば千回を大きく越える回数、通ってきた<道>だ。ビアンカだってもう数十回、行き来してる。
でも、油断はしない。
と、俺のタブレットに<アラート>の表示が。例の不定形生物の接近を告げるものだった。
まあ、今回の場合は、<接近>と言っても、逆にこちらが近付いただけだけどな。あれがいるところに。
対岸辺りに、ゆらりと、水の流れにしては明らかに不自然な動きが見えた。
「いる。不定形生物だ…!」
ただ、普通に考えればまだ十分に距離がある。このまま無視して進んで構わない程度には。
だが、その時、
「
イレーネの声。
「何…!?」
思いがけないそれに俺は緊張する。すると、
「女性だ! 女性があの生物に追われてる!」
直後に、
「ホントだ!
アクシーズの血を引いていて視力が人間を圧倒しているはずの
だが、
「救助に向かいますか!?」
ビアンカの問い掛けに、俺は、
「あ…! あ……!」
一瞬、声を詰まらせてしまう。
その躊躇は、たぶん、時間にしたら一秒も掛かってなかっただろう。次の瞬間にはイレーネがローバーに乗っていることが思い出される。だから命令しようとしたんだ。
『イレーネ!
と。
けれど、それより先に、
「イレーネ! 緊急対応!! あの女性を救出!!」
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