來編 全周警戒

久利生くりうとこれから一緒に暮らすことになることで掛かってくるであろうストレスについては、今の時点であまり気にしても始まらないのも事実だな。


優秀な彼に対して俺が勝手に卑屈になってるだけだろうし。


そういうことで他人を妬んだりする人間ってのも、ホントに少なくないよな。


その人物が優秀だっていうだけで勝手に敵視するとか、もう難癖以外の何物でもないだろう。


正直、俺だってイケメンで才能に恵まれてて社会的地位も高いとかいうのを見たら、


『けっ!』


って思ったりはするよ? けど、だからって本人に難癖付けようとは思わない。八つ当たりしようとも思わない。そんなことをして何が解決するのか、まったく分からない。


しかし同時に、


『内心で他人に反発してしまうことすら許さない』


って話になると、これはこれでまた無茶だと思う。そんなことを思うことさえ許されないなんてのは、むしろ人間的じゃないだろ。


機械は、そういう思考を行わないように設定することもできるかもしれない。が、人間は機械じゃないんだ。無理だよ。


あくまでそれを他人に対してぶつけるような真似をしないようにってのを心掛けるべきなんだろうなと思うだけで。


優秀な人間に対して反発してしまうっていうのなら、それは自分を高める原動力にするべきなんだろうな。


なのに、相手を貶めることで自分との差を縮めようとするのも、残念ながらいる。


けどなあ。そんなことをするから信頼されないんだろうなって思うんだ。


だってそうだろう? そういう奴は誰かが成功したらそれを妬んで足を引っ張ろうとするかもって思うじゃないか。自分が成功したらそいつは足を引っ張ってくるんじゃないか?って思ってしまうじゃないか。


そんなのを信頼なんてできるか?


少なくとも俺にはできない。


だから俺は、他人を妬んで貶めようとかしないようにって自分に言い聞かせるんだよ。自分にとって信頼できないような種類の人間に自分がなってしまわないようにってな。


こういうことも伝えていかなきゃいけないだろうな。


なんて俺が考えてると、ビアンカ、あかり久利生くりうの三人は、久利生くりうが救出された現場へと到着した。


正確には、現場になった河の岸だな。


するとあかりは、まず、ドーベルマンDK-a号機を下ろし、


「おーし! 全周警戒!!」


と命令して、周囲を警戒させた。


命令を受けた号機はローバーの周囲を巡りながらスタン弾を込めた銃口をあちこちに向け、わざと目立つように動き回る。


こうやって、元々ここに住む動物達から見て異様な怪物にも見えるらしいドーベルマンDK-aの存在をアピールすることで近付かせないようにするんだ。


もちろんそのアピールが通用しないもの中にはいるが、確実に襲ってくる奴は減る。


もうすっかりその辺りの対応が身に付いてるんだなあ。


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