翔編 謎は謎のままで

正直、不定形生物の謎については、解けてもいいし解けなくても、俺個人としてはどっちでも構わない。興味はあるものの、逆に、


『謎は謎のままでそっとしておいた方がロマンってものかな~』


とか思ったりもするんだ。


あれの危険度も、まあ、カマキリ人間マンティアンヒト蜘蛛アラクネに比べても高くないことははっきりしてきてるし。


油断してるところを襲われると厄介でも、当の不定形生物自身、<人間のサンプル>はもう間に合ってるみたいだからな。コーネリアス号の乗員達の分だけで。


あれが生息してる河を何度も行き来したのに、最初の襲撃以来、一度も襲われていないどころか、精々、遠くにいるのを見かけるくらいなんだ。まあそれについては、あの不定形生物らしき反応が捉えられると大きく迂回して距離を取るようにしてるというのもあるだろうが。それでいて、河の周囲の動物は、時々、襲われているようだ。


つまり、あくまでエネルギー補給のために捕獲はするものの、おそらくデータとしては欲していないということだろうな。


加えて、あれをひどく恐れているのは、人間由来の、いや、厳密に言うなら、


<コーネリアス号の乗員由来の生物>


だけだ。それ以外の生物の場合、やはり危険だとは感じているようだが、それはどこまで行っても<天敵の一つ>として恐れているだけなのかもしれない。


だからもしかすると、本能レベルで不定形生物に対する恐怖が根付いているのかもな。コーネリアス号の乗員由来の生物には。


しかし、当のシモーヌやビアンカは、警戒はしているものの、それなりに思うところもあるものの、<恐怖>という意味じゃ、俺と大して違わないようだ。ある意味、科学的にあれを認識してるからだろうか。


この辺りも、こういう言い方すると語弊があるかもだが、『面白い』。


まあいずれにせよ、楼羅ろうらのことについて俺なりに折り合いをつけるために頭を使うのもそろそろ一段落かもしれない。


「悪いな。こんな面倒臭いボスで」


言ってしまえば俺の気分転換に付き合せた形になったシモーヌとビアンカに詫びを入れる。


するとシモーヌは、


「何言ってるの。もうどれだけの付き合いだと思ってるのよ。面倒臭いだけならとっくに見限ってるって」


微笑わらい、ビアンカも、


「辛いことと向き合うためにはこうやって気分を変えることも必要だっていうのは私も分かります。


それに錬是れんぜさんは私にとっては恩人です。力になるのは当然です」


と言ってくれた。


ああ…いい仲間に恵まれたな……


改めて実感する。


とは言え、今後も、彼女達のようにまたコーネリアス号の乗員達が再現されることもあるだろう。もしかしたら俺が生きている間にはそういう巡り合わせはもうないかもしれないが、俺達の子孫はそうやって出逢ったりするかもしれない。


その時には<先輩>として丁重に扱うように、このことも伝えておかなきゃいけないな。


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