翔編 新しい情報
「とまあ、そんな感じかな」
シモーヌの話は、正直、これまでに聞いてきたことと大きくは違わなかった。ビアンカの話もシモーヌのそれを補足する以上のものではなく、新しいものは何一つ出てこなかったと言ってもいい。
「正直、シモーヌの話には、『あれ? そうだったかな?』と思う部分もありましたけど、記憶が断片的にしか思い出せないので、断定的なことは何も言えないです」
とは、ビアンカの弁。
だが、だからといって無駄だったかと言われればそれも違うと俺は思う。こうやって状況を改めて認識することには意味があると思うんだ。
また、不定形生物の中に存在すると言う、
<人間を激しく憎んでる何者か>
についても、新しい情報はなかった。ビアンカも、
「確かにそんなのもいたかもしれないですけど、普通に危険な猛獣がいるのと同じだと考えたらそういうのと一緒で、あんまり気にしたこともなかったです」
とのことだったし。なるほど、そういう考え方もあるか。
ちなみに、あの中では『死なない』わけだから、食料として採取された生き物がどうなったのかといえば、動物の場合は死んだ瞬間に<転送>のような形で再度現れるのが実際に確認されてるが、植物の場合はそれが確認されておらず、そういう形では現れないと考えられていた。
これについてはシモーヌが語る。
「おそらく、植物の場合は種そのものが一つの生物と考えられるからだと思う。それについては異論もあるでしょうけど、少なくとも、あの世界を作った<何者か>はそういう認識だった可能性が高い。そのため、種そのものが消滅しない限りそのような形では再現されないんでしょうね。
でも、たとえ動物だけだとしても、無制限に増えていくということになるんだけど、どうやらあの世界には物理的な<果て>がないと見られてて、生物が増えた分だけ世界も広がっていくと推測されてた。
まあ、確かに、宇宙の膨張速度に比べればほとんど無視できるような速度なのかもしれない」
と。
「となればコミュニティが分裂してそれぞれ距離を置くのはむしろ合理的な流れかもしれないな」
とも、俺も感じたよ。
そうだ。死なないんだからコミュニティは拡大するだけで縮小はしない。となると自分の出身コミュニティが消滅する心配もないわけで、むしろ安心して出ていけるとも言えるか。
あの不定形生物が人為的に生みだされたのならそれこそどういうつもりで作ったのかは謎だが、そもそも俺達とは発想からしてまったく違う存在が作ったんだろうなという気がするし、人為的に作られたものであるからこそ<欠陥>もあるんだと考えると、案外、腑に落ちる気もする。
なお、あの世界では『死ねない』ことに気付くきっかけとなった<クラレス>と言えば、
ほとんど嫌がらせのようにさえ感じるな。
ただ、同時に、少しだけ気になる情報も。
「前にも言ったかもしれないけど、あの世界があくまでシミュレーションだと実感させられる現象として、時々、立ち入れない空間が生じるの。今から思うと、あれがきっと、
<落雷等の強い刺激で決まった形しか取れなくなった不定形生物が受け持っていた部分>
なんだという印象がある。それに時々、仲間が巻き込まれてた。だけど、バックアップデータから復元されるみたいにして、しばらくすると元に戻って、仲間も帰ってきたんだよね」
シモーヌが語るそれに、俺は何となく引っかかるものも感じたんだ。
ふむ……
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