翔編 医療体制

他にどうしていいか分からなかったとはいえ、俺はりょうにも当たる危険性を知りながら、ドラゼに発砲を命じた。そして懸念していたとおり、タブレット越しに俺が見ている前で、銃弾がりょうに命中してしまった。これは、俺の責任だ。


「……」


しかしりょうよりもはるかに多く銃弾を浴びたマンティアンは、装甲のような皮膚を貫通こそしなかったものの相当痛みはあったらしく、危険を感じたのか密林に溶け込むようにして姿を消す。


一方、りょうは、木の枝に引っかかりつつ地面に向かって落ちた。


それを、ドラゼが受け止めてくれる。


同時に、アリゼが自身に備えられたポケットから救急セットを取り出し、応急処置を始めてくれた。


ちなみに、鈴良れいらは、騒ぎには気付いていたものの動くことなく巣にこもっていた。


物語的にはこういう時、心配して駆けつけてくれれば盛り上がるかもしれないものの、自然というのはドライだからな。人間の都合に合わせて盛り上げてなどくれない。俺もそれは分かってるから彼女を責めるつもりは毛頭ない。


それに、鈴良れいらが妊娠したことでりょうも他の雌のところに通ってたりしたんだ。そういうものだ。


ただ、そんな風に他の雌のところに行っていても、鈴良れいらと、彼女の胎の中にいるであろう我が子を守ろうという風には思ってくれたんだな。


そんなりょうを喪いたくはない。


そうしてアリゼとドラゼが応急処置をしてくれているところに、エレクシアが駆けつけてくれた。


「エレクシア! りょうを治療カプセルで治療する! 収容してくれ!」


「承知しました」


彼女はそう応えた時にはりょうに鎮痛鎮静剤を打っていた。


しかも、その場でできる処置はアリゼとドラゼが済ましてくれていたから、エレクシアは腰につけていたポシェットからハーネスを取り出し、りょうを背負って固定した。シモーヌを救出した時にもやった方法だ。


ほんの数十秒でそれらを済ませて、エレクシアはすぐさま光莉ひかり号に向けて走り出す。


俺とイレーネも、Uターンして引き返した。


こうして、俺が家に戻った時にはすでにエレクシアがりょうを治療カプセルに入れ、シモーヌとひかりが対処してくれていた。


「左腿に一発、左脇腹に二発、銃弾を受けてた。処置が遅れれば危険な状態だったけど、大丈夫。命に別状はないから」


シモーヌの説明に、俺はその場にヘナヘナと座り込んでしまった。


「良かった……本当に……」










新暦〇〇三十一年六月二十四日。




それから五日間、りょうは治療カプセルの中で眠って回復を待った。


つくづく、最新医療の一つである治療カプセルがあったことで助かったよ。


しかし、コーネリアス号にも備え付けられているから当分は大丈夫なはずだが、それでもいずれは治療用ナノマシンのストックも尽き、今の治療は受けられなくなるだろう。それに備えて医療体制も整えないといけないなと、しみじみ思ったのだった。


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