翔編 リスク

新暦〇〇三十一年六月十八日。




なんてこともありつつ俺達は基本的に平穏な日常を送ってた。ほまれの群れに他の群れがちょっかいをかけてきたことで雄が一人命を落としたりしたものの、それも含めて<日常>だしな。その雄自身、もう結構な高齢だったことで、木の上から転落した時に上手く<受身>を取れなかったようだ。


野生で生きる以上、そういう形で自分の身を守れなくなればそれが寿命だと考えることもできるかも知れない。


ひそかのように<認知症>を発症するくらい長生きすることは普通はないわけで。


それを実感しつつ、アリゼドラゼ村とアリニドラニ村が徐々にできていく様子も見守る。


アリゼドラゼ村の<家>は十軒を超え、アリニドラニ村の方も二軒目の家を建築中だ。


アリニドラニ村の方では、やはりオオカミ人間ルプシアンがアリニとドラニの様子を窺っていたりする。ただ、獲物にはならないと感じているのか、攻撃は仕掛けてこないな。同時に警戒も緩める気はないようで、監視してるんだろう。


その一方で、アリゼドラゼ村のりょうのパートナーである鈴良れいらも妊娠の兆候が見られた。


で、当然のようにりょうは巣を追い出されている。


それも見越して、村の外れの木の上に、やはりルーフキャリアを基にした止まり木をドラゼに作ってもらっていて、りょうはそこを新しい巣にしたようだ。


と同時に、縄張りを隣接する雌のところに通い始める。


う~む。この辺りは<個体差>ということだろうな。しょうのパートナーであるたいは、少なくとも俺達が確認できてる限りでは他の雌のところに行こうとはしていなかったはずなんだが、息子のりょうは他の雌とよろしくやってるか。


まあ、何度も言うようにこれはアクシーズの普通の生態なので、気にするだけ無駄だ。


それに、アクシーズは雌の方が多いらしいから、こうやって雄があっちこっちの雌を回らないと、雌の方があぶれてしまうしな。


かと思うと、すい清良せいらの方はやっぱり淡々としたもので、妊娠の兆候も今のところは見られない。


一方で、しょうがいよいよ産気づいたようだ。出産が始まる。


そうは言っても雄は何もできないから、たいは遠巻きに見守るだけだ。


しかし、縄張りはしっかり守る。


実は、雌が出産する時は、パートナーの雄が傍にいないと縄張りを守れない。それどころか、マンティアンなどに襲われて母子共々命を落とすこともある。


妊娠してる雌にとって雄を追い払うのはそういったリスクも伴うものだった。


その点、たいは、距離は保ちながらもしょうを守ってくれてる。


そういう意味では頼りになるヤツだ。


それに対してりょうはどうかな。


今はまだ鈴良れいらも自力で縄張りを守れるだろうが、妊娠が進むとそれもままならなくなってくる。


これ自体が摂理ではあるものの、人間である俺の本音としては、鈴良れいらを守ってやって欲しいなと思ったりしてしまうんだよな。


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