翔編 ぐうの音も

新暦〇〇三十年十二月二十四日。




アリゼとドラゼの家の屋根に作られた止まり木を、りょうは気に入ったようだった。そうしてそこに木の葉や枝を集めてきて新しい<巣>にしたようだ。


その姿は彼の祖母であるようを思い起こさせる。ようの命がこうやって受け継がれてるんだっていうのも実感する。


それがまた嬉しいよ。


なんてことを思いつつ、今日はチームBブラボーが調査に出てるから俺は家で計画を練っていた。


と言っても、具体的な案じゃなくてホントにただの思い付きなんだけどな。


それを実際に遂行可能な形にしてくれるのは、エレクシアであり光莉ひかり号のAIだ。素人の俺の思い付きなんて、それこそただの夢物語でしかないものも多い。


実現が可能じゃなけりゃ意味がないのにな。


多脚式輸送車両の製造なんて、技術的には不可能じゃなくても、今のコーネリアス号のキャパシティじゃ、何年も先になる。これについては、コーネリアス号のAIにはっきりと、


『実現は八年後』


と試算が出された。はっはっは。ぐうの音も出ん。


仕方がないので、俺のローバーでトレーラーを引っ張って、そこに材木を積み込んで運搬、集落の家を建てる計画を立てた。










新暦〇〇三十年十二月二十五日。




で、翌日、その通りにする。


ブランゲッタを搭載してないトレーラーを引っ張っていくからいつも以上に繊細な運転を求められるので、今日はエレクシアに運転してもらう。


俺は助手席でしょう達の様子をタブレットで確認する。


しょうたいは相変わらず仲が良くて、今日も睦み合ってた。形の上では娘のそういう現場を盗み見てることになるんだが、他の子らのそういうのも散々見てきたから、さすがにもう慣れたな。


ちなみに、人間由来の種族らの多くは、人間と同じで、基本的には随時発情状態になれるものが多い。


ただ、しょう達アクシーズやめい達マンティアンのような、食物連鎖ピラミッドの上位にある種族については、一回の妊娠で生まれる子は一人。そして子育て中はあまり発情しないというのが多いようだ。


これは、何度も言うようにあまり頻繁に子供を生んで数が増えてしまうとたちまちバランスが崩れるからというのもありそうだ。


それでももちろん例外はある。じんなんかは、めいが生まれたばかりの頃にも俺を求めてきて結果としてじょうが生まれたわけで。まあ、じょうが生まれてからは最後まで求めてこなかったものの、やっぱり甘えてきたりはしてたな。そういう例外的な個体だったから俺と一緒にいられたというのもあるんだとは思う。


ああそれと、共食いもするマンティアンだが、カマキリに似ているとは言ってもカマキリじゃないので、『交尾の後に雄が食われてしまう』ということは、基本、ないようだ。


そもそも認めた相手しか近付かせないというのもあるし、その辺りは人間的な部分が優位なんだろう。


ただし、それにもやっぱり例外はある……らしい。


じんがそうじゃなくて良かったよ。


もっとも、そんなこと、エレクシアが許すはずもない。俺に襲いかかろうとした瞬間に容赦なくぶっ飛ばされるのは目に見えてるしな。


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