翔編 清良

こちら側の密林で生きる野生動物としてはマンティアンに次ぐ強さを持つアクシーズではあるものの、野生生物としての生態はまあまあ違ってる。


もちろん強さが魅力の基準にあるのは同じだが、マンティアンほどは強さ一辺倒でもないんだよな。


見た目とか、<優しさ>みたいなものもいくらかは加味されるようだ。


で、何を言いたいかというと、この雌、助けられたことですいのことが気に入ってしまったらしくてなあ。


まだ若かったこともあってこれまではあまり意識していなかったのが、今回のことでスイッチが入ってしまったのかもしれない。


とは言え、すいにとっては縄張りを荒らす侵入者に過ぎず、その時は、雄が逃げ去った後に雌に対しても、


「シャーッ!!」


と威嚇して、追い払ってしまった。


「こらこら、女性には優しくしないと……」


エレクシアと共に新たな集落候補地に向かっている途中、ローバー内でドローンカメラを通じて一部始終を見ていた俺は、思わずそう呟いてしまった。


が、そんな声が届くわけもなく、加えて人間の感性を当てはめても意味がなく、単に成り行きを見守るしかなかったけどな。









新暦〇〇三〇年十一月三日。




しかしそれから、その雌は、ちょくちょくすいにアプローチをするようになった。


基本的に野生の動物は雄が雌にアピールすることが多いだろうし、アクシーズもそういう場合が多いみたいではあるものの、すいの母親のようも彼女の方から俺のことを気に入ってくれたように、雌の方が先に気に入るというのもないわけではなかった。


今回の雌も、かなりすいのことが気に入ったようだ。


が、肝心のすいの方は……


うん、駄目だなこれは。まったく関心を持ってる様子がない。雌が縄張りに侵入すれば容赦なく追い払い、かといって遠くから熱い視線を送っててもまるで無視。


めいに対するさくと同じパターンだ。


さりとて、あっちはすでにパートナーがいたが、すいはまだ独り身だ。決して悪い話ではないと思うぞ。その雌の器量も悪くなさそうだし。


そうは言ってもこれもすい本人の問題だしな。これで無理に押し付けようとすれば、あの雄と同じになってしまう。


あ、そうそう、ちなみにあの雄は、ちゃっかり他の雌に粉かけて、そっちは上手くいったようだ。やっぱり単に好みの問題だったか。


だからやっぱりあの雄に魅力がなかったってわけじゃないんだよ。その辺りは勘違いしちゃいけないな。人間の目線では『どうかなあ』って印象だったとしても、それが悪いとは必ずしも限らない。


逆に、傍目には良さそうに見えても当人にとっては迷惑ということもある。


なかなか上手くいかないものだな。


で、ちょっと応援したい気持ちもあって、俺はその雌を、<清良せいら>と名付けた。


りょうりょうが被ったこともあって、もうそろそろ二文字の名前でもいいかなと思ったんだ。


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