走・凱編 正直になって

「いいじゃん、これでいこうよ!」


「可愛いね。私もいいと思う」


タブレットを通じてアリスの頭部のデザインモデルを見たあかりひかりが声を上げた。


でも、そこに、


「あの…いいですか…?」


と声を上げる者が。


ビアンカだった。ビアンカが手を上げてたんだ。


「どうぞ」


シモーヌが促すと、彼女は遠慮がちながら、


「え、と。私もこれでいいと思うんですけど、量産化するんだったら、外見のデザインはバリエーションを持たせるというのもアリじゃないですか……?」


そう発言する。


そんな彼女を、シモーヌは真っ直ぐに見詰めてしまったそうだ。するとビアンカはそれに気付いて、


「ごめんなさい…! 出過ぎた真似でした……!」


って体を小さくしてしまった。


でも、シモーヌはもちろんそんなことを思ったわけじゃない。ビアンカが自分から意見を述べてくれたことにハッとなっただけなんだ。


「ううん! 違うの。それでいい。それでいいんだよ。<意見>は言ってくれていいんだよ。そうだね。一体毎に変えるのは少し大変だけど、いくつかバリエーションを持たせるのはアリだと思う」


この時のシモーヌの声が嬉しそうだったと俺も感じた。


誰彼構わず一方的に自分の意見を押し付けようとするのは疎まれるが、少なくとも俺達は彼女が何を望んでどうしたいのかをきちんと知りたいと思ってる。彼女とどう接していけばいいのかを知るためにもな。


だから意見でも我儘でもとにかく思ってることを口にしてくれたらいいんだ。それが、彼女を生かそうと勝手に思ってる俺達の責任だと考えてる。感情をぶつけられるのも当然なんだ。


でもまあその代わり、彼女に対して責任を負わない他人に対してはあんまり我儘に振る舞うのは勘弁してほしいけどな。


世の中には、何でもかんでも自分の意見や感情を表に出して他人に認めさせようとするのが当然の権利と考えてる人間が少なくないが、はっきり言ってそういう奴は周囲から疎まれる。俺も好きじゃない。


ただその一方、自分の意見や感情を一切押し込めてしまうのも違うと思うんだ。そういうのを受け止めてくれる相手には素直に出していいと思う。そうして自分の言おうとしてることが他人からはどんな風に受け止められるのかを客観的に見てもらうことができるんじゃないかな。


とにかく何でもかんでも自分の意見や感情を相手かまわず垂れ流しにする人間って、そうやって身近な人間に受け止められてもらえてない気がするんだ。だから相手を選ばず自分を認めさせようとする。


が、多くの場合、それは逆効果なんだよな。かえって他人から疎まれるだけなんだ。


でも、ビアンカが俺達に対して正直になってくれるのはいい。


その覚悟もなく彼女を迎え入れようとは思っていないからな。


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