明編 游と淕

新暦〇〇二九年十月二十七日。




うららまどかひなたれいが順調に育っていってるのと同じように、めいの第二子であるせいも順調に育っていた。まだまだ鎌は未発達だから狩りは決して上手ではないものの、昆虫やトカゲ、ヘビくらいなら自力で捕まえられるようになってきている。


とても頼もしい限りだ。


そしてその頃、じょうの方にも変化があった。彼の傍に雌の姿があるんだ。それももう三ヶ月ほどになる。今までで一番長い。これはもしかするともしかするぞ。


人間である俺の影響を強く受けているんであろうじょうは普通のマンティアンとはどうも感性が違ってる。だからどうしても波長の合う相手が見付からなかった。


しかし、じんが俺をパートナーとして認めてくれたように、ちょっと変わったのはやっぱりいるもんなんだな。


人間の俺にはあまり区別はつかないものの、その雌もじんにどこか似ているのかもしれない。じょうとしてもそれを感じ取ったんだろうか。


まあその辺りの細かい話は別にどうでもいい。あの子が幸せになってくれればいいだけだ。








新暦〇〇三十年五月十日。




で、さらに数ヶ月後。ひなたがいよいよまどか達について行けるようになってきた頃、じょうの傍にいた雌が子供を産んだ。


じょうが作った巣から当人が追い出されている間に生まれたから、間違いなくじょうの子だ。


よかった。野生だとやっぱり、自分の子を残せるかどうかっていうのは重要になってくるからな。


分かりやすく喜んだりはしないものの、巣に戻って雌と子の様子を見てるじょうの姿はどこか嬉しそうに見えた気がする。


で、雌の名前はゆう。子供の名前はりくと名付けた。まるで霙(みぞれ)のような水玉模様が体に浮き上がっていたんだ。ごくまれにそういう個体もいるらしい。正確には水玉模様と言うよりは、斑点状に光の屈折率が違う部分があるという感じか。元々、緑色っぽく見えるだけのマジョーラカラーと言われるような感じの体色をしてるから、水玉模様のような感じで色が違って見えるだけだ。


しかし、どんどん<孫>も増えてくるな。もはや覚えきれんぞ。時々、完全に忘れてる子もいるからそれがどうにも申し訳ない。


まあ、この群れから巣立っていった子らについてはそこまで俺が気に掛ける必要も元々ないのかもしれないが。


孫についてはそれこそ生んだのは俺じゃないし。その子をこの世に送り出した者が責任を負うってのが本来の形だろうし。


それでなくても、いずれは俺の手が届かない子が出てくるだろう。完全に野生に戻り、俺達とはまったく関係なく生きていく子が……


その事実を想いながらも、俺の群れで俺の庇護の下にいる子についてはちゃんと気に掛けてるぞ。


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