明編 親としての喜び
「なあ、
すると彼女は、
「そうだね。大変なこともあるけど、私はお父さんの子供に生まれてきて良かったと思うよ。だから
俺と同じことを
『子供に生まれてきて良かったと思わせてあげるのが自分の役目』なんて、基本的には決して楽な考え方じゃないにも拘わらず、だ。
人間はとかく、享楽的で自分にとって都合のいい選択をしてしまいがちだ。『子供の為に生きる』なんて、
『綺麗事だ』
『馬鹿馬鹿しい』
『そんなこと本心から思えるわけがない』
と嘲る者も多い。
だがそれは、自分の親を思い浮かべてるからか? 自分の親を思い浮かべたから、
『そんなことできるわけがない』
『どうせ口先だけだろう』
と思うということか?
いくら自分の親が尊敬できないような人間だったからって、他人もそうだと思わないでもらいたいんだが。
俺が『子供達のために生きる』と素直に思えるのは、結局、両親の姿を思い浮かべればだというのが分かる。両親は間違いなく俺と妹のために生きてくれていた。そしてそれを本人達自身が望んでいて、幸せを感じていた。だから俺もそれを見倣おうと素直に思える。
これが、
<親としての喜び>
自分が生んだ子に自分の選択が間違いじゃなかったと肯定してもらえる充足感。しかも、意図してそれを得ようと思っていないから実感できたときに余計に嬉しいんだ。
俺も、
それを果たすことができていた。
もちろんこれから先にも、
『生まれてくるんじゃなかった』
と思ってしまうような苦しいことがあったりするかもしれない。俺も妹のことでずっとそう思っていた時期もあった。妹自身もそう思ってたかもしれない。
でも、それでもなお、
『生まれてきて良かった』
と思える時も確かにある。そしてそう思える時の方がずっと多い。
俺が就職する少し前に両親が亡くなり、俺が就職してすぐに妹が病気を発症し、それから二十年、醜い怪物のように変わり果てていくあの子を見ながらかさんでいく医療費の支払いに追われ、何度も何度も、
『生まれてくるんじゃなかった』
そう呪ったが、今じゃ、
『生まれてきて良かった』
なんて思ってるんだもんな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます