明編 一線

今、俺がこんなことを考えているのは、ここにできるかもしれない人間社会で生きる者達に、


『なぜ、人間同士で殺し合ってはいけないか?』


というのを、ほとんどの人間が納得できる形で伝えていきたいからというのもある。


『そんなことをしなくても、人間を殺しちゃダメなんて当たり前だろ!』


なんて言うのもいるだろうが、それを『当たり前』と思っていない人間が実際には結構な数がいるから、凶悪な事件が起こるんじゃないのか?


だから、


<人間を殺しちゃダメというのが当たり前と認識できない人間>


が出ないような、そういう人間にも、


『こういう理由で、人間は殺しちゃダメなんだ』


と説明できるようにしておきたいんだ。


普通の人間からしたら、


『別にそこまで難しく考えなくても……』


みたいに思われることでも、そこまで難しく考えて納得できる理由を提示してもらわなきゃ理解できない人間が現にいる以上は、必要なことだろうと俺は思う。


昔の俺がまさにそうだったからだ。


妹のことで追い詰められ、


『なぜ人間を殺してはいけないか?』


という疑問に対して納得のいく答えを見付けられなかった当時の俺自身に対して必要な理屈を探してるんだ。


あの頃の俺は、まさに、


『俺にとっては妹以外に大切な人間なんていない。妹以外の人間なんていくら死んでも構わない』


とか思っていたからな。


それと同時に、


『こんなに苦しんでるんだから、いっそ楽にしてやらないとダメなんじゃないか?』


と妹に対して思ってもいたからな。


ただ、あの時点だと、もし妹を殺していたら、たぶんそれこそタガが外れていた気がする。


『俺の妹は死んだのに何でお前らは生きてるんだ!?』


なんてことを考えそうだったし、実際に妹が亡くなった時にはそう思ったりもしたよ。それを行動に移さなかったのは、あの子が亡くなったことで気が抜けていたからってこともあると思う。


だからそれが収まってくるとそれこそ抑えが効かなくなっていた可能性が高い。


まあ、実際には、エレクシアと出逢ったことで気が逸らされて、爆発せずに済んだんだけどな。


鬱憤を溜め込んで爆発する奴は、結局、そういうのがなかったんだろうと思うんだ。


それを思うと、俺は運が良かった。


もっとも、エレクシアと光莉ひかり号を買う為にさらに借金を重ねて<プラネットハンター>なんてヤクザな商売をすることになったりもしたわけだが、結果としてはそれでも一人のままでいるよりは救われたとも思う。


で、今に至るというわけだ。


ひそかじんふくようと出逢って子供達が生まれ、さらにこうして孫達にまで囲まれるという幸せを得られたんだ。


それもこれも、あの頃に一線を越えなかったからというのがあると思う。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る