明編 外敵と戦うには

めいに気付かず彼女のすぐ前を通り過ぎようとした若いボクサー竜ボクサーの運命など、言わなくても分かるというものかもしれない。


ボクサー竜ボクサー自身も何が起こったのか分からないうちにめいの鎌に捕えられ、頸椎を折られ神経を断たれて絶命する。


本当に呆気ない。しかしそのおかげで、めいせいは生きていけるんだ。申し訳ないという気持ちと共に感謝する。


だから、もし、俺の家族がそうやって犠牲になったとしても、それ自体が命の循環なんだと思わなきゃな。


もっとも、だからといって割り切れないのも分かっているが。


割り切れなくてもそういうものだというのも理解している。


幸いここまで犠牲になった家族はいないものの、それは結局、エレクシアやメイフェアやイレーネ、光莉ひかり号やコーネリアス号のおかげなんだな。


彼女達や、光莉ひかり号及びコーネリアス号のAIが制御してるドローンやプローブ、ドーベルマンDK-aが守ってくれてるおかげなんだ。


それがなければ、俺は家族を守り切れていない。


ただ、家族が増えてくれば、仲間が増えてくれば、それだけリスクも増える。守りきれないことだって出てくるだろう。それは覚悟しておかないとと思ってる。


普通に人間の社会で生きてても、犯罪や事故に巻き込まれるというのはある訳だし。ましてやここは、そこまで守られてない世界だし。


それでも、俺とシモーヌを除けば、基本的には自分で自分の身くらい守れるからな。そして子供達もここでの生き方をしっかりと学んでいって欲しいと思う。


うららまどかが家や庭を縦横無尽に走り回って遊ぶのも、結局はそれだ。天敵に遭遇した時に、危険を前にした時に、瞬時にそこから離脱する為に必要な体の使い方を、遊びながら身に付けていってるんだ。


ほまれそうかいしんしょうめいの時だって、ケンカのようになって、場合によっては流血の事態になっても、それが既に<予行演習>になってたのが分かる。


反面、人間の社会で人間が生きていくには、他人を傷付けようとする攻撃性は高いリスクになる。が、ここではそれも必要なんだ。あくまで家族や仲間には向けないようにしてくれればいいだけで。


生きる環境によって求められるスキルやメンタリティも違ってくるのが当然。それをわきまえてないとおかしなことになるんだろう。


『殺人鬼のような凶暴性も、外敵と戦うには必要だ』


みたいなことを言いだすのが出てくるようにな。


それを容認していると、外敵に害される前に同じ人間に害される危険性が、人間同士で傷付けあう危険性が高くなるから、まさしく本末転倒だな。


ここにも<人間社会>ができるのだとすれば、俺達<地球人>の世界で起こった様々な問題について改めて徹底的に検証して、同じ過ちを犯さないようにしていってほしい。


そのために必要なことについて、俺も、より一層考えていきたい。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る