明編 別居

新暦〇〇二九年四月十四日。




せいが無事に生まれたからといって、かくはすぐに巣には戻れない。子がある程度大きくなって完全に自分の力で母親にしっかりとしがみつけるようになるまでは、母親自身が出産のダメージを回復させる為という理由とも併せて雄を近付けさせないからだ。


それもまあ、二週間から一ヶ月くらいの話だが。


その間、かくは今回もどこか他所に行ってしまうことはなかった。


木の枝にうずくまって休み、そしてそれまでと変わらず狩りをする。これも、人間だとあれこれ言われるような話だろうが、マンティアンの世界では普通のことなので俺は何も言わない。


そもそも、かく自身がさほど気にしてる様子もない。


巣を持たずに転々とするのは、マンティアンなら若い頃に誰もが経験することだし、慣れているというのもあるんだと思われる。


そして、せいの発育が順調なのと、二度目の出産だったこともあってか、今回の<別居>は二週間ほどで終わったようだ。


かくが巣に近付いてもめいは威嚇せず、受け入れた。


「良かった良かった。すまんな、かく


もちろん聞こえるはずがないのは分かってても、タブレットに映し出された映像を見て、俺は思わずかくに謝っていた。マンティアンの場合はそれが当たり前とは言っても、舅としてやっぱり申し訳ない気分になるし。


せいも健康そのものですね」


データを確認していたシモーヌがそう言ってくれる。


すると、巣に帰ってきたかくと入れ替わるように、めいせいを胸にしがみつかせて巣から出てきた。狩りに行くんだろう。


ジャングルに溶け込むかのようにしてめいの姿を一瞬見失う。画像処理されていてもこれだから、肉眼で見ていたらそれこそ見付けられなかっただろうな。


そしてめいは、木の幹と一体化するようにして獲物を待ち伏せる。


そこに、一匹のボクサー竜ボクサーが近付いてきた。まだ若い、体の小さな個体だ。もちろん、駿しゅん達の群れのじゃないだろう。彼女らの縄張りとはまるで場所が違ったし。


まあ、駿しゅん達の群れから巣立って放浪中の若い個体だという可能性も無いわけじゃないが、そこまで気にしているとキリがないからな。


ちなみに、レッド達とその子供達にはマイクロチップを打たせてもらってるが、駿しゅん達にはしていない。この辺りにも線を引いている。


レッド達は俺達の家の庭にいつもいるので、拳銃型のマイクロチップ注射器が使えるんだが、ドローンへの搭載はまだ試作段階ということもあって、駿しゅん達までは手が回らないというのもあるんだよな。


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