明編 理性

うららまどかがそうして遊んでいる一方で、れいはイレーネの胸にしがみついて冷めた視線を向けていた。


その表情が、見た目は人間でもやはりマンティアンなんだなということを感じさせる。


もっとも、ひかりはパパニアンの血を受け継いでいながら、ほまれ達とはまったく違ってたが。


その辺りは、元々の性格というものなんだろう。


生まれつき、多少は性格の違いもあるものだというのはそこで分かる。だが、だからといってそれですべてが決まってしまうわけでもないというのは、実際に子供達が育っていく様子を見ていて実感した。


それで決まってしまうなら、アクシーズであるようの娘として生まれ、実は気性の荒いところもあるあかりがあんなに優しい子に育つわけがない。


性格というのは、根っこの部分は大きく変わらなくとも、そこからさらに上書きされて、大きく変化することもあるんだろうな。


だからあかりは、


『気性の荒いところもありながら優しい』


っていう子に育ってくれたんだ。これが、攻撃的な部分ばかりを伸ばすような育て方をしていたら、彼女はそれこそ、野生のアクシーズと変わらないくらいに凶暴で、しかも人間としての知能も備えた、非常に危険な存在になっていたかもしれない。


ここで生まれる子供達は、基本的には野生を色濃く受け継いでいて、元々高い攻撃性を持っているんだ。わざわざそれを伸ばすまでもなく、な。


野生に戻る子達については、下手にそれを抑えるようなことはしないようにしてきたつもりだ。でないと、野生として生きる上では不利に働く可能性もあったから。


しかし一方で、人間として生きることになる子達には、逆に攻撃性を抑えるように接してきたし、エレクシア達も原則として人間を育てる時の対応をしてもらった。


攻撃性を前面に押し出した人間が何をするか、今さら説明するまでもないだろう。テロリストはもとより、日常生活の中でも攻撃性を抑えようとしない人間によるトラブルは枚挙に暇がない。ネット上でも、他人への攻撃性を隠さない奴が何をしているか、おそらく知らない者はいないんじゃないか?


しみじみ、野生と人間の世界の両方を経験してきて実感したよ。人間はやっぱり原則的に理性を優位に立たせておかないと危険な生き物なんだって。


なにしろ、<武器>を自在に使うからな。その武器ってのは、何も銃やナイフのことばかりじゃない。ネットってやつも、使い方次第では非常に強力な武器になる。


そして人間は、それをどう使えば武器になるかっていうのをよく知ってる生き物なんだ。


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