明編 玲

新暦〇〇二八年十二月二日。




パパニアンのうららまどか


ひかりじゅんの実子のひなた


そして、マンティアンの子。


俺の<群れ>に次々と新しい命が迎え入れられている。


その新しい子を、俺はれいと名付けた。女の子だ。


見た目こそ人間だが、れいはさすがマンティアンの子だけあって、すごく静かだった。一応泣いたりはするものの、泣き声がとにかく小さい。「みい…みい…」とまるで子猫のような泣き声だった。


しかしそんな様子に反してれいはとても元気だった。そして強い。


力もそうだが、ちょっとしたことでは動じないんだ。


保護されてから十日も経つと、周囲の様子を油断なく窺っているかのような気配さえ見せ始めた。そしてイレーネを母親と認識しているようだ。


彼女が抱き上げるとその胸にしっかりと抱きついて離れない。


さすがに完全なマンティアンの子のようにがっちりと一体化するかのようにはしがみつけない(マンティアンの母親の胸には、子供の未熟な鎌を引っ掛けて体を固定できる窪みがあるが、イレーネには当然それがないし、れいの手も人間のそれだから引っ掛けられない)が、それでもイレーネのエプロンドレスを模したボディの僅かな段差部分に指を引っ掛けて自力で掴まっていることもできていた。


大したものだ。


だがそれだけに、イレーネがメイフェアの代わりにほまれ達の警護に出る時もれいはイレーネについていった。


でもそれも、この世界で生きるれいには必要な経験なのかもしれない。


「そういうわけで、れいのことを頼む」


と、俺はイレーネにれいを任せることにした。


危険かもしれないが、イレーネなら守り切ってくれるだろう。


「承知いたしました」


彼女は端的に応え、念の為に用意した<抱っこ紐>でれいが万が一にも振り落とされないようにしつつ、ミルクやオムツを入れたバックパックを背負い、密林へと入っていった。


念の為に、がくの一件の後、メンテナンスのためにコーネリアス号に送り返したドーベルマンDK-a拾壱じゅういち号機の代わりに送ってもらった拾弐じゅうに号機もバックアップとして付ける。ほまれの群れにあまり近付かせると警戒されるので、少し離れたところから見守る形になるが。


こうして、思わぬ形でイレーネの<母親業>が始まった。


もっとも、母親代わりはそれこそメイトギアの主要機能の一つでもあるところ。その点については何一つ心配は要らないだろう。


加えて、縄張りが重なっているめいじょう、さらには同じく縄張りが重なっているしょうすいは、ほまれ達を守ってくれるような動きさえしている上に、かくほまれ達を狙わなくなったことで、大きな危険は減ってるんだよな。


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