誉編 情報伝達

新暦〇〇二八年八月十六日。




がくのことも気になるが、とにかく俺達の<群れ>の家は正式に三軒となった。


俺の家と、シモーヌの家と、ひかり達の家だ。


もうこれだけで、<小さな集落>程度にはなったかもしれないな。この調子で、少しずつ家が増えていってやがて<町>ができるんだろうか。


いつかそれを迎えられるようになる為にも、がくの件は慎重に対応しなきゃいけない。


排除せずに済むならそれに越したことはないものの、やるとなれば容赦なくやらなきゃいけないな。


分かってはいても、それを何度も自分に言い聞かせる。


こうやって自分自身に言い聞かせてないとすぐにヘタレてしまうからな。


俺ってやつは。


『……それにしても、見た目は確かにみずちの方が怪物然としていたが、単純に能力だけで言うと、たぶん、こいつの方が怪物だな……』


タブレットに映し出されるがくの映像を見ながら、俺は背筋が寒くなるのを感じずにはいられなかった。


サイゾウの近似種の群れに遭遇すると、二十頭くらいいるそれに躊躇うことなく突っ込んでいったんだ。


いくらがくの全長が八メートル以上(発見時よりもさらに大きくなっている)と言ってもそれはあくまで尻尾も含めた長さであって、胴体部の容積だけで言えば、サイゾウやサイゾウの近似種の方がむしろ大きいくらいかもしれないというのに、その群れに躊躇なく突っ込んでいって圧倒するなど、みずちでさえ見られなかったことだ。


まあ、最終的には全長二十メートルを大きく超えたとはいえ、プロポーション的にはヘビに近かったみずちでは、体重の面で不利だったのは確かだろうが。


それを考慮に入れたとしても、がくの強さは規格外すぎる。


しかも、ちょくちょく母艦ドローンのカメラを意識しているかのように視線を向けるんだ。


単に、異様なものが空を飛んでるのを気にしてるだけかもしれないが、それにしたって印象が被り過ぎている。


グンタイ竜グンタイの<きょう>に……。


きょうは、異常なほど人間を憎んでいた。いや、正確には、


『そんな気がする』


だけだったんだが、そんなきょうの姿があまりにもダブる。


「……きょうとあの不定形生物とが何らかの形で繋がっていて、きょうの記憶が保存されていたということは有り得ないだろうか……?」


一緒に映像を見ていたシモーヌに、思わずそう尋ねてしまう。


「……私自身はそういう実感はありませんが、あの不定形生物との間で情報伝達があるという感覚はありませんが、もしかすると一方的に情報を収集されているかもしれないという可能性は否定できませんね……」


決して具体的な根拠がある訳ではないものの、それが彼女の素直な印象なのだった。


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