誉編 家族を守る覚悟

他ならぬシモーヌ自身が、例の不定形生物が今の彼女の姿を取ったことで生まれた存在であり、不定形生物の中で今も<情報体>として生きている<オリジナルの秋嶋あきしまシモーヌ>のコピーだったので、実は成り立ちそのもので言うと、みずちがくと同じだった。


もっとも、彼女は俺達にとって家族も同然の<良き隣人>なので、その事実をさて置いて彼女を怪物扱いするつもりなど毛頭ないし、これまでずっと一緒に暮らしてきて、セシリアやシモーヌ自身が体を徹底的に調べて、『体が透明である』ということ以外は何一つ人間と変わらないのは確認してきてるしで、その点では何の問題もない。


あくまで、同じ由来を持つ存在として、何かヒントになる情報はないものかと考えただけだ。


しかし、


「これまでにも何度も試してみましたが、私の方から呼びかけてみても何の反応もありません。ただ、もしかすると、向こうからの信号に私が気付けていないだけという可能性も、ゼロではありません」


とのことだった。


なるほど、それは十分に考えられる。


実際のところ、人間もその辺を飛び交っている<電波>を体で受けてはいるものの、それを情報として解析する能力がないから認識できないだけらしいな。


だから彼女には認識できていないだけで、俺達の今の技術じゃそれを解析できないだけで、不定形生物と、それに由来する生き物の間で何らかの情報のやり取りが行われてても不思議じゃないか。


なにしろ、実用化に向けて研究が続けられているという<量子テレポート通信>だって、それ以前は、理論的にはその可能性が示唆されてたものの実際には観測されていなかったんだもんな。


もし、量子テレポート通信のようなものが行われていたとしたら、それに対応してない俺達の機材では探知できなくて当然だな。


しかし、万が一、がくきょうの記憶を備えてたりしたら、さぞかし俺達のことを恨んでるだろう。


こちらとしても生きる為に戦っただけとはいえ、『恨みを買う』っていうのがいかに厄介なことかっていうのを改めて教えられる。


恨みは、いわば<呪い>だ。呪いなんか受けるもんじゃない。


まったく。やれやれだよ。


もっとも、俺の予感がただの杞憂に過ぎない可能性も十分ある訳で、そうであってほしいと願うだけかな。


それでも、たとえがくがもしきょうの生まれ変わりだったとしても、俺は家族の命を守ることを優先する。


もう一度あいつを殺すことになったとしてもだ。


その覚悟もないようじゃ、ここで家族を守るなんてできないだろう。


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