誉編 エレクシア

新暦〇〇二八年一月一日。




正直、ここはそれこそ毎日が命のやり取りをしている世界ではあるものの、いわゆる<テロ>とは全く無縁の世界でもある。


人間のように恨みを拗らせて無茶をすることがないからな。自分が生きることが最大の目的であり、それ以外はまったくの余禄なんだ。


中にはばんのように執着を見せる例外もいるが、基本的には、自分が生きられるのなら厄介事からはとっとと逃げたい、関わりたくないというのが本音だろう。


人間がテロに走ったりするのは、ある意味ではそんな余計なことを考えるだけの余裕があるということなんだろうな。


皮肉な話ではある。


過酷ではあるが、人間のような恨みつらみに囚われて最後には他人を巻き添えに壮大な自滅をしなくて済むここの暮らしは、逆説的に言うと<幸せ>なのかもしれない。


毎日毎日を懸命に生きてるほまれ達を見るとそう思わされるんだ。


まあ、そういうことを抜きにしても、俺自身は確実に幸せだけどな。




今日も、すばるとどろきに突っかかっていって、退けられていた。そうやってすばるの相手をしていたからか、最近、とどろきの様子に変化が見られた。


顔つきが精悍な感じになってきてる気がするんだ。


自分より若いパパニアンを<指導>することで、先輩としての自覚が芽生えてきているのかもしれない。


ほまれがそれを狙ってすばるを迎え入れたのかどうかは、メイフェアに訊いても本人がそれについて何も言ってないそうなので分からないが、もしそうだったとしてもあいつなら何も不思議はない気がしてくるな。


ヤンチャで向こう見ずで、無謀な<冒険>をしたことで危うく命を落としかけたりもしたほまれが、こんなに立派なボスになってくれたことを、父親として本当に誇りに思う。


人間社会にいた頃は自分が親になるとか想像もできなかった俺でも、その機会が与えられたことは素直に嬉しい。


「何か良いことがあったのですか? マスター」


ほまれ達の様子をタブレットで見てた俺に、エレクシアが声を掛けてくる。どうやら頬が緩んでたらしい。


俺がなんでニヤニヤしてたかなんて彼女はきっとお見通しのはずだが、こうやってわざわざ訊いてくるあたりが彼女らしいよ。


だから俺は敢えて、


「……いや、エレクシアと出逢えて本当に良かったなと思ってな……」


と、関係のないような返事を返す。


するとさすがの彼女も、


「? 意味が分かりません。なぜそうなるのですか?」


と訊き返してきた。


そんな彼女に、俺は何だか嬉しくなり、


「今の俺がある何もかもが、エレクシアのおかげだからだよ」


そう言って笑ったのだった。


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