誉編 自分の姿を

「なんとかなるなるか~、それは大得意だな」


俺に言われて、あかりは少し安心したようだった。


親は誰でも、最初は初心者だ。


『立派な親になれる自信がついてから親になるべきだ』


なんてことを言うのがいるが、それは<親>ってものを分かってない人間の言うことだって気がするな。


就職だって進学だって、万全の状態になってから始めるか? 普通は誰でも新人で、いろいろ不安だったり自信がなかったりする状態から、周囲の人間の指導を受けながら経験を積んで自信もつけていくものだろう?


親だって同じだ。


誰でも最初は<初めての経験>なんだよ。


『大人なんだからできて当たり前』


ってのは幻想だ。


「むしろできなくて当たり前なんだと思う。


俺もそうだった。それを、セシリアやエレクシアに手伝ってもらいながら、教わりながら、できるようになっていったんだ」


ひかりあかりの前で、俺はしみじみとそう語る。それが俺の実感なんだ。


親としての。


完璧じゃなくたっていい。間違いながら、失敗しながら、そうして親になっていくんだ。


間違ったって失敗したって、そこから学んで経験を積んでそうして大人になっていくんだっていうのを、親は自分の姿を子供に見せることで、人間はそんな風に成長していくんだと学ばせると、自分が親になって実感した。


ほまれもたぶん、今まさに親として成長しているところなんだろうな。


その一方で、まどかを生んだ雌は、そんなことはもう全く無かったことのように平然としてた。


薄情にも思えるかもしれないが、それは、野生の生き物であれば当然のことなんだろう。いつまでもそういうことを引きずってるのを野生の世界は許してくれない。


だからと言って人間がそういうことを引きずるのを『未練がましい』とも思わない。違う生き物である以上、メンタリティも違っていて当たり前だからな。


それに、俺達が人間だからこそまどかの命は繋がれた。


しかも、俺の子供達だけでは人間として増えていくことは叶わなかったかもしれないが、こうして別の遺伝子を持った者が外から入ってきてくれるというのは、人間という種が増えていくには必要なことだ。


これでますます、ここに人間の社会が出来上がっていく可能性が高まったな。


どんな社会になっていくのかはまるで見当もつかないが、ほまれ達をはじめとしたこの星に生きる者達の<良き隣人>であってほしいと思う。そのために俺も微力ながら協力させてもらおう。


幸い、世代を超えて必要なことを語り継いでくれる、エレクシア達もいてくれる。


それを活かさない手はないよな。


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