誉編 なんとかなるなる

新暦〇〇二七年六月四日。




ほまれに連れられたまどかが俺達の<家族>に加わって数日、ひかりは、シモーヌやセシリアのサポートを受けながら母親としての役目を果たしていた。


なので、調査の仕事は当分は休みだ。


俺も、まどかの様子が気になるから、しばらく調査は休むことにする。


と言うか、可愛くてなあ。ずっと見てたいんだよ。しかもひかりがまた、健気に<母親>してるんだ。


が、それが高じたのか、


「おっぱいが張ってきてる……? 母乳が出る……?」


などと言いだした。


するとシモーヌが、


「強い母性に目覚めると、それによって分泌されたホルモンにより、妊娠を経なくても母乳が出る例は確かにあります。ひかりもそれでしょうね」


と説明してくれる。


「そうなのか…? いやはや、生命の神秘だな……!」


まさか妊娠出産の前におっぱいが出るようになるとか、素直に驚きだよ。


そして本当に、セシリアに<母乳マッサージ>を受けたひかりは、母乳が出るようになった。


と言っても、実際に妊娠した訳ではないからか、量としては微々たるものだったが、


『母親に乳を含ませてもらう』


ことが赤ん坊にとっては大事らしく、ひかりに抱かれているとすごく落ち着いていたようだった。


ただ、一方で、


「私にも抱かせて」


あかりが抱くと、


「ふい…ふぅう、ういぃ……!」


って感じで明らかにぐずり出す。どうやらまどかにとっては完全にひかりが母親で、彼女とは違うってことが認識できているようだな。


「なんか悔しい。自信なくすわ~…!」


あかりが軽く落ち込みながらそう漏らす。


「ごめん……」


ひかりは申し訳なさそうに言う。


そこに俺は、


「気にしなくていい。まどかひかりを母親と認識したというだけのことだ。それに、あかりが穏やかに接してくれてればそのうち危険な相手じゃないってことが伝わって安心してくれる。


そこで変に意識して緊張すればそれを赤ん坊も察してしまって不安になるんだ」


ほまれ達については母親にほとんど任せてたとはいえ、ひかりあかりについては人間として育てたから、俺も積極的に関わってきた。おむつの交換もミルクもお風呂もやった。


その際に得た実感を、あかりにも伝えるんだ。


「心配しなくても、俺にもできたことだ。あかりにもできるようになる。焦らなくていい。子供の前では穏やかな気持ちでいることが大事なんだ。焦りやイライラは禁物だぞ。


だいたい父親なんて自分が生んだわけでもないのに<親>になるんだぞ? 


それを思えば接し方次第で赤の他人でも<親>にもなれる。


相手をちゃんと人間として敬うことができれば、後は『何とかなるなる』って感じで軽い気持ちでいればいい。


それがコツだよ」


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