誉編 静 その4

こうして再び不遇な時を過ごすことになったしずかだったが、仲間の多くはそれを自業自得のように捉えていたのか、彼女を気に掛けてくれる者は殆どいなかったようだ。


ほまれを除いて。


ほまれは、仲間から冷たく扱われるしずかに対しても、彼女の為に餌を取ってきたり、仲間から暴力を振るわれているとそれを庇ったりもした。


この際、ほまれの味方になってくれたのが、この時点ですでにパートナーであり、のちに<第一夫人>ともなるあおだった。あおは三代目のボスの子だったが、しずかとは別の雌の子で、正直、彼女はあおのことをあまり快く思っていなかったらしい。


なのにあおの方は、ほまれの母親代わりでもあった彼女のことは嫌いではなかったらしく、仲が良かったとまではいかなかったにせよ決して邪険にはしなかった。そしてほまれがボスの座に着くと共に彼女を第二夫人としたことについても、反対はしなかったそうだ。


これによって再度、<ボスの妻>の座を得たしずかではあったものの、今度はさすがにほまれの手前もあってか、以前ほどは横暴に振る舞うようなことはなくなっている。もっとも、微妙に<意地悪ばあさん>的なところは残っていて、特に若い雌に対しては少々横柄に振る舞うところは今も散見されはいるが。


そんな彼女も、パパニアンとしてはそれなりの高齢になり、以前ほどの迫力も影を潜めていた。おそらく、残された人生も長くはないだろう。


また、三代前のボスとの間には二人の子を生した彼女だったが、子供達は二人とも既に亡くなっている。一人は、生まれてすぐに。もう一人は、他のパパニアンの群れとの衝突の際に亡くなった。そう、他の群れとのいざこざで亡くなった<二人>のうちの一人がしずかの息子だったのである。


高齢の為か、ほまれとの間にはなかなか子供ができなかったものの、先日、ようやく三人目の子、とおるを授かった。


しかし、彼女は、年齢のこともあってか我が子の面倒をあまり見ようとせず、結果として、あおが自身の子、たもつみどりの手が離れたこともあり我が子のように面倒をみることで、健やかに育っている。


そして今日も今日とて、しずかとおるのの相手をすることもなく、怠惰な様子で好きな果実を食べながらぼんやりと空を眺めていたりした。


その様子は、俺の妻でほまれの母親である、<ひそか>が老衰で亡くなる少し前の様子を彷彿とさせたのだった。


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