誉編 静 その5

しずかにとって生まれはあまり恵まれたものではなかったかもしれない。


また、それを理由に報復に走ったことで、かえって自分を追い詰めることにもなったりした。


だが、ほまれに優しくしたことで大切にしてもらえて、結果として報復にこだわる必要がなくなって、彼女はようやく、平穏な毎日を手にしたのかもな。


彼女のしたことで<報い>を受けるべきだと考える向きもあるかもしれないが、彼女は自分がやられたのと同じことをしたに過ぎず、正直なところ、彼女が本当に悪いのかという点においては、合理的な疑問が残る。


彼女にいびられた者達については、ほまれによるフォローもあり、彼女のことを嫌ってはいるものの直接的な攻撃はほぼ行われていない。


やられたことをただ『我慢しろ』というだけでは、当然、納得してもらえない。そこを、ほまれが気遣うことで不満を和らげ、報復が連鎖することを防いだ。


彼は、


『揉め事はお前らで勝手に解決しろ!』


とは言わず、何かトラブルがあれば積極的に介入し、自ら調停役を買って出た。そして現在、そんなほまれの手腕を学び、主な調停役として機能しているのは、第一夫人のあおだった。


彼女は頭もよく、理性的で、非常に優秀な補佐役だ。しかも、実は幼かった頃、ひそかに可愛がってもらった経験があったようだ。そういう意味でも、ほまれとは縁があったらしい。


ちなみに密は、四代前のボスの代に途中で群れに加わったらしいんだが、しずかと同じで群れの中での立場は非常に低く、元からイジメの標的としての存在価値しかなかったのだという。


なのに、ひそかが俺と仲良くなったことが原因で群れを追われてからは、より一層、しずかにイジメが集中したという経緯があったようだ。


そしてひそかは俺の下で穏やかな日々を送ることになった一方で、しずかはなおも群れの中で辛い日々を送ることになった。


つまり、間接的にではあっても俺が彼女を追い詰めた形にもなるから、正直、彼女を責める気にはなれないんだよな。


これも、ほまれと共に群れに合流することになったメイフェアが記録していたパパニアン達の<会話>を改めて解析することで判明したことでもある。


ひそかの元々の仲間はもうほとんど残っていないと思っていたが、さすがに彼女より下の世代はまだ残っていたということか。


なお、ひそかが元々いた群れは、四代前のボスの時代に、縄張り争いで負けて、一部が吸収される形で合流し、その辺りのこともあって、ひそかは群れの中での地位が低く、ある意味では、四代前のボスが、自分の元々の群れの仲間のガス抜き役として取り込んだという一面もあったようだ。


いやはや。群れの運営を円滑にする為の知恵だったらしいとはいえ、なかなかにエグイ話ではあるな。


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