誉編 メイフェアの日常 その2

メイフェアの朝は早い。


と言っても、彼女はロボットなので睡眠の必要がないからそもそも一日に区切りなんかつけなくてもいいんだが、彼女が仕えている<ほまれ>には、当然、睡眠が必要だからそれに合わせて活動するという訳だ。


俺が<パパニアン>と呼んでいる種族の群れの一つにボスとして最近収まったほまれは、俺の<実の息子>である。


真っ白な体毛に全身が覆われ、サルに近い習性を持つ<パパニアン>だが、その遺伝子は人間のそれを色濃く受け継いでいて、と言うか限りなく人間に近くて、その雌であったひそかと俺が名付けた個体と、まあ、<そういう関係>になって生まれたのがほまれということだ。


メイフェアはそのほまれを主人として頂き、彼に仕えることを役目としている。


で、夜明けと共に活動を開始する群れに合わせて、彼女の一日も始まるということだ。


新米ボスであるほまれの仕事は、まず、群れの仲間達の無事を確認することで、群れの若い雄達がそれぞれ担当してる小集団の無事を確認しそれをほまれに報告しに行くのだが、メイフェアはその報告が正しく確実に行われているかを確認するのが仕事の一つだった。


時々いるのだ。確認を面倒臭がってきちんと行わずに適当に報告する奴が。


彼女は、密林の中に監視カメラ代わりに大量に配したドローンを使ってそれを監視し、正確でない報告を行う者についてほまれに報告するのである。


なお、パパニアンには、非常に簡潔で原始的ではあるが<言語>に近いものがあり、ロボットであるメイフェアはそれを解析、理解し、再現することで完璧なコミュニケーションを取ることができる。


ただ、どこまで行ってもロボットである彼女は、ほまれ以外のパパニアンからは全幅の信頼を得ることができず、どうしてもある種の差別の対象となっていた。あくまで<ほまれの付属物>としてのみその存在を認められている状態と言える。


しかし、代わりにほまれが仲間から絶大な信頼を得ているので、それに比して彼女の扱いもそんなに悪くもないが。


メイフェアは、感情(のようなもの)を実装されたロボットゆえ、自身の扱いがあまりに酷いと、ストレスがかかってしまう。これが、そういうのとは違う、本来のロボットならば、たとえどんなに過酷な扱いを受けたとしてもまるで意に介することもないのだが。


その辺りでも、ほまれを主人にできたことは、彼女にとっては幸運だっただろう。


ほまれにとっても彼女は<もう一人の母親>とも言うべき存在で、非常にかけがえのない者になっていたのだから。


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