誉編 メイフェアの日常 その1

メイフェアは、ロボットである。


それも、人間の女性そっくりに作られ、人間の身の回りの世話をすることを目的に作られたロボットだ。


かつては人間型のロボットのことを<アンドロイド>と称していた時期もあったそうだが、実際にロボットが普及して多種多様なそれが人間社会に溢れるようになっていくうちにその呼び名はすっかり廃れてしまい、


<人間によってつくられ、AIによって制御される作業用機械>


については全て<ロボット>という一般名詞で呼ばれるようになった。


あまりに多種多様なロボットが生み出されたことで、


『どこまでをアンドロイドと呼べばいいのか?』


という区別が難しくなったというのも、その呼び方が廃れた原因の一つだと言われている。




―――――なんて御託はまあ置いといて、この惑星に不時着した俺が最初に見付けたロボットが、彼女だった。いや、厳密にはセシリアが最初なんだが、セシリアについてはコーネリアス号と一緒だったし、ある意味、コーネリアス号と込みだったから、『単体として』という意味ではメイフェアが最初ということである。


彼女は、恒星間航行用の宇宙船の慣熟試験を兼ねた惑星探査プロジェクトの一部として運用されていた<コーネリアス号>の備品として配備されていたんだが、そのコーネリアス号が遭難し、俺がここに不時着するより二千年ばかり前に同じく不時着したことで、取り残されていたんだよな。


その時に、コーネリアス号の乗員達を、謎の不定形生物の襲撃から守り切れなかった自責の念からこの惑星で朽ち果てることを選び、実際に朽ち果てるのを待つだけだったところを俺が見付けてしまったという訳だ。


よくまあ二千年も放置されてて再起動できたものだと思うが、今のロボットを構成する素材自体が、一部の消耗品を除きすべてリサイクルによって再利用することを前提に作られたものであり、部品自体の耐用年数は数百年から千年単位、物によっては一万年でももつように作られているから、実はそれほど不思議なことでもないそうだ。


ということは、彼女が完全に朽ち果てるにはさらに数千年から一万年単位の時間が必要だったということなんだろう。


老化抑制技術の進歩により人間の健康寿命も二百年を超えた今でも、それはさすがに果てしない時間だな。


だが彼女はロボットなので、時間がどれほど流れようともそれを苦痛には感じないが。


本来は。


ただ、彼女は、


<ロボットに人間の感情を再現する実験>


のテストベッドでもあったことが、ある意味、不幸だったのかもしれない。


なぜなら、それ以外の<普通のロボット>は、仕えるべき人間が事件事故で死亡してもそれを苦痛には感じないし、ましてや<罪の意識>になど苛まれることもないから、たとえ主人が死んでもそのまま次の主人に仕えるのをただ待つだけなんだ。


なのに、なまじ<感情(のようなもの)>与えられてしまったことで、ある種の暴走を起こし、自分が配備されたはずのコーネリアス号から逃げるようにして立ち去ってしまったという訳だ。


が、そんな彼女も、今では俺の息子、<ほまれ>を主人として、第二の人生とでも言うべきものを送っているんだよな。


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