ただし灯に限る(それも本音らしい)

新暦〇〇二四年十月三十日。




ひかりと結ばれてからのじゅんは、何と言うか、文字通り『一皮むけた』気がする。


一言で言えば、『大人になった』んだ。いや、冗談抜きでまさにその感じなんだよ。


一応、もう既に成体だった筈なんだがそれでもどこかあどけなさも残ってた表情が引き締まり、<大人の男>のそれになったという印象なんだ。


いやはや、女性というのは本当に男を変えるな。


その一方で、ひかりも表情に艶っぽさが出たと言うか、こちらも<大人の女>になったということかな。


お父さんは嬉しいやら、でも微妙に寂しいやらで複雑だよ。


だが、二人が仲良くて幸せそうにしてるのなら、それが一番か。


例の激しい求愛行動も鳴りを潜め、しかも振る舞いそのものが人間っぽさを増して、言葉そのものはたどたどしい片言のそれから先には進まなかったものの、使い方については板についてきて、必要な時に必要最低限だけ喋ることで<寡黙で真面目な青年>風になってきた気がする。


ただ、その変化を少しだけ寂しく思ってる者もいるようだ。


「なんか、じゅんが大人になっちゃったな~。なんだか寂しいな~」


と漏らすのは、当然、あかりだ。


一緒に騒げなくなったのが残念らしい。


かといってお互いに距離を置くようになったとかそんな訳でもなくて、相変わらず仲はいい。


でも、


『一緒に悪ふざけして遊んでた可愛い弟が大人になってしまって以前のようには遊んでくれなくなったのを残念がってるお転婆なお姉ちゃん』


って感じなのかもしれないな。


その所為か、最近、空を眺めてることが多くなった気がする。


タカ人間アクシーズとして生まれながら羽を持たなかったことで、彼女は地上に留まることを強いられた。


それを恨んでる様子はないものの、じゅんのこととも併せて、もしかしたら一抹の寂しさもあるのかもしれない。


しかしそれと同時に、じゅんの何気ない振る舞いに、今度はあかりが時折、照れくさそうに頬を染めながら頭を掻いたりしてる様子が見られるようになっても来た。


車高の高いローバーから降りる時、じゅんひかりだけじゃなくあかりのこともエスコートするかのように手を差し伸べたりするんだが、その手を取る時に、


「えへへ♡」


と嬉しそうに、でもちょっと照れくさそうな表情を見せるんだ。


「ほうほう、これはこれは…!」


俺はそんなあかりの姿に、思わず口元が緩んでしまう。


ひかりじゅんの変化に、そういう部分では<発育>が遅れてたあかりも、いよいよ目覚め始めてる感じですかな。


なるほど、これはひかりあかりとでじゅんをシェアするようになる日も近いのかもしれない。


しかも、ひかりもそれを望んでるようだ。


あかりにも、この気持ちを実感してもらえたらと思う」


とも言ってたな。


もちろん、じゅんあかりがそうなると考えたら少しヤキモチもないわけじゃないそうだが、それ以上に、自分が今、とても満たされているのを、あかりもと思ってるそうなんだ。


ただし、そう思えるのは相手があかりの場合に限るというのも正直なところらしいが。


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