命の営み(変に受け取る必要はないんだろうな)

ひかりはともかくじゅんの方は一応は病み上がりなんだが、治療カプセルはその辺りも考慮されていて、治療中も、本来健康な体の部分については刺激を与えて筋力が落ちすぎないようにしてくれるんだ。


だから、アスリートのように極限まで鍛え上げたパフォーマンスまでは維持できなくても、日常生活に支障のない程度には維持されるようには作られているそうだ。


ただ、それはあくまで人間の体の話であって、一流アスリートをも上回る身体能力を持つじゅんのそれについては、さすがに無理だろうな。


しかし、そのおかげで逆に力が入りすぎなくていいかもしれないとも思ってしまった。


『なにしろ、人間の腕の骨くらいなら握っただけで粉砕できるほどの握力があるもんなあ…』


初めてひそかに抱き締められた時の<衝撃>は今でもはっきり覚えてる。体中の骨が砕けるかと思ったよ。


でもまあ、その後は彼女も心得てくれて手加減してくれたから、それで怪我をしたことはなかったが。


とは言え、彼女を怒らせないようにしようとも思ったけどな。


それももういい思い出か……


なにやらやけにニヤニヤしてるあかりを見ながらコーヒーで寛ぎつつ、俺はそんなことを考えていた。


すると一緒にコーヒーで一息ついていたシモーヌが、


「なんだかこっちの方が照れくさいですね」


と、少し困ったような笑顔で言った。


その気持ちも分かる気がする。俺も正直、照れくさい気がしてる。自分の娘が男と睦み合ってるのが分かっててこうやってるというのは、何とも面映ゆい。


一方で、もっと嫉妬を感じるかと思ったりもしたが、そちらは意外と平気だな。


そうしているとまたひそかが俺に甘えてきたので、そっと抱き寄せてやる。


その体を撫でると、見た目の愛らしさとは裏腹に大変な力強さも感じさせるしっかりとした筋肉を持っているのを察せられたものが、もはや見る影もないのが分かる。


だからか、最近はもうあまり自分で餌を取りに行くこともなくなっていた。セシリアが作ってくれる料理で満足してくれてるらしい。


と言うか、以前のように素早く木に上ることもできなくなっているんだ。だから億劫なんだろうな。餌を取りに行くのが。


それでも、体調は決して悪くないらしい。毛並みも綺麗なものだ。表情も、穏やかだがしっかりとした意志の力を感じる。着実に<その時>は迫ってるが、まだ少し猶予はあるようだ。


ひかりの子が来るのが先かどうかって感じかもしれない。


そうだ。今、ひかりじゅんは、まさに命の営みを行っているんだ。それを変な風に受け取ることの方が、本来はおかしいんだろうな。


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