デートに出掛ける(場所もない)

新暦〇〇二四年十月八日。




じんようふくが逝って、とうとう俺の嫁はひそか一人になってしまった。


エレクシアはそもそも存在自体が別格なので、同列に扱うことはできない。


人間どころか生き物でさえないもんな。


それに、彼女は俺を見送る側になるだろうし。


だから今は、ひそかのことだけを考えていればいい。


と言っても、人間のように『どこかに連れていけ』とか『美味しいものを食べさせろ』とか言わないからな。デートをする必要もない。ただ彼女が満足するまで一緒にいてやればいいだけだ。


もっとも、それが苦手という男もいるだろうけどな。


だが俺は逆に、特に何をするでもなく一緒の時間を過ごすだけっていうのが割と得意なんだ。まあ、元々は出不精で面倒臭がりっていう面が大いにあるんだよ。という訳で、いちいちデートとか出掛けるのは苦手だったりするんだ。


そういう意味でも、相性が良かったのかね。


そもそもここには、デートに出掛けるような場所もない。


実は<絶景スポット>と呼べるものなら割とあったりするんだが、ひそか達にはそんなもの、何の価値もないもんな。


そう考えると人間が絶景スポットとか見たがるのって不思議だよな。腹が膨れる訳でもないただの<絶景>を見て感動するのとかって、何なんだろう?


謎だ。


あと、この台地の上には当然<海>はないものの、それなりの大きさの<湖>があるのは発見してるので、例えばそこに遊びに行くとかいうのはできなくもないにせよ、泳いだりなんていうのは、ただの自殺行為だな。


なにしろ、水辺ってのはそれこそいろんな生物が集まってくる場所だ。中には当然、危険なのもいる。そこで裸同然の格好で水と戯れるとか、完全に<餌>を提供しに行ってるだけだろう。


ひかりあかりは、それぞれボノボ人間パパニアンタカ人間アクシーズだからか、<水浴び>は好きなものの、シャワーを浴びるくらいで満足するし、ワニ人間クロコディアに襲われて死にかけたシモーヌに至っては水辺そのものにトラウマレベルの苦手意識を持ってしまってるから、


「泳ぎに行きたい!」


なんてことを言い出す者は一人もいないんだよなあ。


なので非常に助かってる。


ここで『泳ぎに行きたい!』とかごねられても困るからな。


それこそ命懸けで、超厳戒態勢の中で遊ぶことになる訳で、それの何が楽しいのかさっぱり分からん。


『スリルを楽しむ』


という話だとしても、それはあくまで安全が確保された上での話のはずだから、本物の危険の中でスリルを楽しまれたって、安全を確保する周りの人間の神経がもたないだろう。


迷惑な話だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る