ゆったりとした時間(大切にしたい)

日が暮れて夕食を済ますと、今度はふくが俺にすり寄ってきた。それより少し前、ひそかは俺から離れて自分の寝床で休んでる。寝てはいないようだが、起きてくる気配もない。


ふくに順番を譲るかのように、な。


いつものことだ。


俺が二人を大切にしているのが伝わっているから気持ちに余裕があるのだとしたら嬉しいが、本当のところはどうなんだろう。


そこまでは分からないものの、現に二人が無駄に争うことなく平穏に過ごしてくれてるのは事実だから、それでいい。


しかもそれは、何か無理に我慢しているとかそういうのでないのも分かってる。あくまでその状態でリラックスしてるのが、エレクシアのセンサーでも探知されてる。俺の希望的観測じゃないんだ。


ふく達が上手くやってくれてて、俺は本当に嬉しいよ。ありがとう」


まるで猫のように俺の膝の上で横になるふくをそっと撫でながらそう話しかけても、彼女はそれを聞いているのかいないのか、特に何か反応を示すでもなく、ただゆったりと寛いでいた。


だが、それは彼女の気分がいいからだということを俺は知っている。気に入らないことがあれば落ち着きなくきょろきょろしたり歯を剥き出したりするからな。それがないということは、そういうことだ。


ふくも、ひそかと同じように<おばあちゃん>って感じになってきた。とても可愛いおばあちゃんだ。


彼女と暮らした日々を思い出す。


ようほどじゃないがちょっとしたことで癇癪を起し、鬼の形相で俺を睨み付けたり、しん達とケンカになってたりもしたな。それも最近はすっかりなくなった。丸くなったというのもあるかもしれないが、それができるほどの体力や気力がなくなったということでもあるんだろう。


いろいろ手を焼かされたりもしたものの、今じゃ全部いい思い出だよ。


「ありがとう、ふく……」




だが、その翌朝……




ふくが先ほど息を引き取りました…」


「……え…っ!?」


まだ寝ていたところにエレクシアに声を掛けられて、俺は思わず飛び起きた。


寝間着代わりのTシャツとジャージのままでふくの寝床に掛けつけると、そこにはいつものように寝ているだけにしか見えないふくの姿があった。


ふく……」


そっと隣に膝をついて体を撫でると、まだ温かかった。今からでも蘇生措置を施せば、息を吹き返しそうだ……


だが……


ふくは苦しんだか……?」


俺の問い掛けに、エレクシアは静かに答える。


「いいえ。眠った状態のまま、静かに息を引き取りました。心停止を確認したのは三分前です。事前のお申しつけの通り、蘇生措置は行いませんでした」


「そうか……ありがとう……」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る