人間もまた(この宇宙に生まれた生き物)

新暦〇〇二三年九月十六日。




ここに人間の社会ができる。


以前は考えもしなかったことだった。ひかりが生まれても、シモーヌが来ても、あかりが生まれても、その時点ではただの夢物語だと思っていたから、それを目指そうなんてそれこそ本気では考えもしなかった。


…いや、ちらっとは頭をよぎったし、妄想レベルの話としては考えなかった訳じゃないんだが、そんなことが実現できるとまでは思っていなかったんだ。


それが、じゅんの存在を確認したこと、そして、ひかりじゅんを受け入れたこと、何より、じゅん自身がここでの生活に適応していってるという事実が、ただの<妄想>を、<可能性の一つ>にまで押し上げたんだと思う。


なんてことを、池に釣り糸を垂らしながらぼんやりと考えていた。その俺に、最近ますます甘えるようになってきたひそかがぴったりと寄り添っていた。


柔らかい白い毛が、そよ風に揺られて俺の頬をくすぐる。


もしかしたら自分に残された時間がそう長くないことを悟って、それで甘えてるのかもしれないな。


人間も歳を取ると子供に戻っていくと言うが、それを彷彿とさせる姿だよ。


ひそかは決して<人間>じゃない。だが俺達とこうして穏やかに暮らせているという事実もまた、もしここに人間の社会ができても彼女らと<良き隣人>として生きていける可能性も示している気がするんだ。


ただ、そうなると今度は<人間>がこの世界を壊してしまわないかという心配がある。


それについては、人間がこれまでしてきた失敗の数々をきちんとした記録として残し、同じ失敗をしないように伝承していくという形を取ることもできるかなと考えてもいる。


事実、人間は今でもいろいろ失敗を重ねてはいるが、<宇宙に湧いた癌細胞>だの<ゴミ>だの散々言われてきたにも拘わらず、ゆっくりとはいえ今なお着実に進歩していってるんだから、なんだかんだで上手くやってくれるかもしれない。


どうなるかは分からないが、人間もまたこの宇宙に生まれた生き物である以上、どうにかこうにか生き延びて繁殖していくんだろう。


生物が繁殖していく過程で、その場の環境を変化させてしまったりというのは、それこそ地球の過去を見ても何度となく繰り返されてきたことだ。環境を大きく変化させて大絶滅を招いたりなんてのは、人間以外の生き物もやらかしてきたことでもある。ことさら人間ばかりを<悪者>扱いするのも実は歪なんだということも分かってきている。


なるべく配慮はしつつも、穏やかに増えていく分には別に悪いことじゃないとは思えるようになってきたかな。


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