巣立ちと言うか(婿入りと言うか)

当人達にしてみればそれこそ命のやり取りだったのだろうが、傍から見てる分にはどことなくじゃれ合いにも見えなくもなかったことで、命を落とす必要もない気がして、程々のところでろく号機によって<邪魔>をするようになってからはますますじゃれ合いの様相を呈してきた気がする。


とは言え、双方共に恐ろし気な顔つきで、


「ガアァッ!!」


「ギィィッ!!」


と吠えているから、『怖い』と感じる人間には怖いだろうけどな。


だがそういう光景を散々見てきた俺達には、命を落とすほどのことでもない限りは割と可愛いようにも感じられるまでになってしまっていたかもしれない。


しかも、そんな空気を読んだ訳でもないんだろうが、いつしか本当に駿しゅんごうの距離は、縮まっていたようだった。


もしかすると、お互いに一歩も引かないその超強気な姿に共感するものでもあったのだろうか。二人、いや、二匹並んで周囲を睥睨するような様子も見られるようになっていた。


で、ついには、ごうは自分の群れには帰らず、駿しゅん達と一緒に行動するようになったのである。


まあ、自分が生まれた群れから『巣立った』ということなんだろう。その堂々たる佇まいからは、ようやく巣立ちを迎えた若いボクサー竜ボクサーだとは信じられないほどだったが。


なんと言うか、<嫁入り>ならぬ<婿入り>って感じだろうか。


しかしそうなると次の展開は早く、あっさり駿しゅんと番って早々に卵が産まれてた。


駿しゅんも、ごうと出逢ったことで自分が雌だということにようやく気付いたらしい。この辺りは本能のなせる業か。


だが同時に、本来は産みっぱなしで丁寧に卵を守ったりもしない筈のボクサー竜ボクサーであるにも拘わらず、駿しゅんは自分の卵に寄り添い、守るような姿を見せた。


もしかすると、陸号機が彼女を守ってたのを倣ったのかもしれない。もちろん『守った』と言ってもそんなに丁寧に守ってた訳じゃないが、それでも一般的なボクサー竜ボクサーでは普通やらない程度には守ってたからな。そんな様子を見ていて、やはり、自分が親にやってもらっていたことを覚えていて子育てをするのかもしれないという思いが強くなったりもした。


それで言えば、俺も、自分の子供達になるべく丁寧に接するように心掛けてきてよかったよ。


卵が孵ってからも、駿しゅんは、<母親>としての姿を見せていた気がする。


それが、新たに群れに加わった雌だけじゃなく雄達にも伝播したのか、同じように子供を守るような振る舞いを見せるようになっていった。


<子育て>と言っても、さすがに多くの哺乳類の親が見せるほど丁寧なものではなかったが、少なくとも他のボクサー竜ボクサーには殆ど見られないレベルの熱心さではあったんだよな。


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