父娘揃って(素直にな)

ようを送る儀式も滞りなく終わり、俺は、じんの時と同じように酒とグラスを手に墓の前に座っていた。じんの時と違うのは、隣にあかりがいることだ。


「ねえ…お父さん……」


あかりが静かに話し掛けてくる。


「なんだ…?」


「私ね…不思議なんだ……ママのこと<お母さん>っていう実感ないのに、なんかすごく、こう、胸の辺りがキューッとするんだ……


なんでだろう…私にとってお母さんはシモーヌのはずなのに……」


「そうか……でも、あかりがそう感じるなら、それでいいんじゃないか? 何もおかしいことじゃないと俺は思うよ……」


「いいの…?」


「ああ、いい…それでいいよ……」


「そっかあ……それでいいんだ……じゃあ、泣いていいんだよね……」


「いいよ、好きなだけ泣いたらいい……」


「うん……」


そしてあかりは、


「う……うぁ…うぁああぁぁぁん……!」


と、大きな声を上げ、本当に幼い子供のようにボロボロと大粒の涙を流しながら泣き出した。


それにつられて、俺も、


「ぐ……ぐ…うっ……」


と嗚咽が漏れてしまう。


父娘二人して、ようの墓の前で泣いてるんだ。


すると、そんな俺とあかりの傍に来た者がいた。そして、そっと頭を撫でる。


あらただった。新が、俺達の隣でしゃがみ込んで、あかりの頭を撫でてくれてたんだ。


まるで、『よしよし』ってしてくれるように。




りんとの関係が上手くいかなかったのは残念だが、あらたも優しくていい子なんだ。だから自分の仲間が悲しんでるのを見て放っておけなかったんだろう。ただ、俺に対しては、ボスだし、まあ、迂闊に『よしよし』とかできないんだろうが。


実はこの時、ひかりも俺達の様子を見て泣いてしまってたらしい。しかもそれを、じゅんが『よしよし』してくれてたようだ。


ボノボ人間パパニアンは、人間由来の種族の中でも特に社会性という特質を強く残していて、仲間が辛そうにしてるとそれを労わるというメンタリティも残してるらしい。


だからこそ、らいの振る舞いが許されなかったんだろうなっていうのも感じる。人間と同じで、嫌なことをされるとしっかりと覚えていて、『やられたらやり返す』発想がしっかりあるんだろう。


ただ、それは言い換えれば、


『してもらったことは返す』


という方向にも働くものでもあるだろうから、労わってもらえた場合にはそれを返すということもできるんだろうな。


あかりは、あらたに対しても優しかったからな。でもまあ、やり過ぎるとりんがヤキモチを妬くからあまり構うことはしなかったが。


それでも、あかりに優しくしてもらえたことをあらたも覚えてたのかもしれない。


つまるところ、他人を労われば自分も労わってもらえる可能性が高くなるし、他人に攻撃的になれば自分も攻撃される可能性が高まるということなんだろうな。もちろん、必ずそうなるという訳じゃないにしても、少なくともはっきりと体感できる程度の差はあるんじゃないだろうか。


とは言え、周囲にいる人間が揃いも揃って人でなしだったりするといくら労わってみてもそれをいいように利用されるだけだったりするかもしれないから、そういう場合は、そんな人間に囲まれている環境をまず何とかしないといけなかったりもするかもしれないが。


その点でも、あらたに対しては、ここでは誰も理不尽なこと(子供同士のじゃれ合いで無茶をされたことはあったとしても)をしなかったことで、あらたの方も優しくできるんだろう。


でも、気を付けないといけないのは、


『こっちが優しくしたら相手も優しくしてくれるのが当然』


とか思わないことだという気がする。自分が優しくしたからって相手も同じようにしてくれるとは限らない。それは事実だ。だから、『優しくしたら優しくしてくれて当然』と考えてるとその通りにならなかった時に苛々してしまって、結局自分も攻撃的になり、それがまた自分に返ってくるだろうし。


優しくされても態度が柔らかくならない人間は、元より相当根深い精神的病巣を抱えてるんだろうから。


昔の俺がまさにそれだったな……


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