負けた気がする(ペットを飼う気分って)

新暦〇〇一〇年二月十三日。




ろく号機を親代わりについて回るボクサー竜ボクサーの子供について、変に名前を付けたら余計に情が移ってしまって辛くなると思うのに、つい、<駿しゅん>とか心の中で呼んでしまってる俺がいた。


正直、関わり合いになると厄介な獣として疎んでたのは事実だ。なのに、こうしてみると、ペットを飼う人らの気持ちが分かる気がしてしまうんだから、人間ってのは本当に勝手な生き物だと思うよ。


でも、悪い気はしない。ちくしょう、なんか負けた気がするのに。


駿しゅんは本当に片時も陸号機から離れようとはしなかった。まあ、はぐれたら命に係わるんだから当たり前といえば当たり前か。しかも、寝る時には陸号機のボディの隙間に入り込んで、しっかりと安全も確保しつつなんて様子を見ると、子供でもその辺は抜け目ないな。


ドーベルマンDK-aは、とにかく簡素化されたロボットだから、可動部に異物が挟まったりしないように最低限のカバーがつけられてるだけなんだが、それがちょうどいい具合に駿しゅんが身を隠す為の隙間になっている。しかも、さっきも言った通り可動部には最低限といえどカバーがつけられてるから、挟まれたりする心配もない。


本当に、おあつらえ向きにそれがまた上手い具合に守る為の構造になってるんだ。まったくそんなこと想定もしてなかったのに。


俺達の<縄張り>内を哨戒してる陸号機と駿しゅんの姿が、時折、密林の中でちらちらと覗く。


クローラーを備えた自在に動く四本の脚で、木の根が複雑に絡まり合ったそこを危なげなく進む陸号機。


その陸号機の後を、ちょこちょこと、時にぴょんぴょんと、確かに可愛らしい動きでついていく駿しゅん


だから駿しゅんの動きに合わせて陸号機も進む。ほとんどの獣は、彼らから見たらそれこそ<怪物>のような怪しい陸号機に近寄ろうともしないことで、結果的に駿しゅんも守られてる。


それでいて、昆虫はさすがに陸号機そのものを恐れたりもしないから、動きを止めれば、たかってきたりもして、それを駿しゅんが巧みに口や手で捕らえて食事にありつく。


途中、号機やしち号機とすれ違っても、不思議とそちらには目もくれない。


ちなみに号機は、ロールアウト寸前に、材料として使った資材の一部に亀裂が入ってることが分かって完成が遅れた為にコーネリアス号の方に配置されてる。初号機、弐号機、参号機、伍号機がコーネリアス号。肆号機、陸号機、漆号機がこちらという配置だ。


まあそれは余談なので置くとして、とにかく駿しゅんが、陸号機を<親>と言うか<仲間>として認識してるのは間違いないと改めて実感させられたのだった。


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