深の出産(いよいよか)
『
俺の言葉に、メイフェアは、
「分かりました。
そう快く引き受けてくれた。
ドーベルマンDK-a肆号機も派遣はしたものの、あんな怪しいのがすぐ近くをうろついてたら
破水が起こりいよいよ出産が始まる。
しかしその時、タブレット上に表示される、マイクロドローンが拾うバイタルサインを確認していたシモーヌが少し険しい顔をした。
「もしかすると、まずい状況かもしれません」
「…え?」
思わず声を上げる俺にシモーヌは、
「胎児の心音が一つ、確認できません」
「まさか…?」
俺は胃の辺りをギュッと締め付けられるような気がした。
「クソ…っ!」
そう声を上げても、ここからじゃどうすることもできない。
こういうこともあるのは分かっていたはずだ。生き物である以上は。でもこれまでは上手くいってたことで、どこか他人事のように思っていた気がする。それが今、突き付けられたんだ。
とうとう、俺のところにもそういう現実が訪れたってことを。
「まだ、上手く拾えてないだけという可能性もありますけど…」
シモーヌはそう言ってくれるが、正直、気休めに過ぎないというのは俺にも分かった。
ログを確認する限り、昨日の時点でもう心音が捉えられていなかった。だから治療も何もない。
実際、生まれた二人は元気よく「みぃみぃ」と泣いていたが、最後の一人は色からして明らかに普通じゃなかった。
もう、どうすることもできない。無駄と分かっていても治療したいという気持ちもあるが、恐らく、その子を助けようと近付けば、出産で気の立ってる
だから諦めるしかなかった。メイフェアにも手出ししないように、
「待機だ。余計なことはするな」
と釘を刺しておく。
「…はい……」
感情を再現されているメイフェアだったが、さすがに主人と仰ぐ
しかし、俺に突き付けられた現実はそれだけじゃなかった。
元気な二人の体を舐めて綺麗にした後、動かない方の我が子を手に取り、
死ねば、たとえ我が子だったものであっても、ただの<肉の塊>にしか過ぎない。出産で失ったエネルギーの補充の為にも必要なことだったのは、頭では分かってる。
「……」
でも俺は、締め付けられるような胸の痛みに、耐えるしかできなかったのだった。
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