密の習性(やっぱり少しおかしいな)

ひそかが近付いてくるようになってからさらに一週間。俺はあることに気付いていた。彼女は俺とエレクシアに興味があったっていうのももちろんだが、それ以上に気になるものがあるらしかった。


「それが気になるのか?」


ひそかは、簡易テント代わりの防水シートと一緒に木の枝に吊り下げられた虫除けに鼻を寄せてしきりにその匂いを嗅いでた。


不時着した初日、周囲の環境を把握する為に、エレクシアが採取した蚊に似た昆虫らしき生き物を分析機にかけてみたらデング熱の原因になるデングウイルスに非常に近いウイルスを媒介する厄介な生き物だということが判明して、近付けないようにと手持ちの虫除けを試してみたら効果抜群だったことで吊っておいたんだが、ひそかはその匂いがすごく気になるようだ。


「彼女の体からも近い匂いがしていますね。どうやら彼女達も虫除けとして自分の体に付けているようです」


とエレクシアが言う。メイトギアには、人間にとって好ましい環境を作り上げる為に匂いを嗅ぎ分ける機能もあり、それでひそかの体からしてる匂いにも気が付いたのだ。


抜け落ちた体毛を分析機にかけてみると、虫除けに含まれているものと非常に良く似た成分が検出された。しかもそれは、元々ひそかの体から分泌されているものではなく、どうやらわざわざ自分で毛皮に塗り付けているらしいということも分かった。恐らく、彼女もあの虫に刺されないようにする為にそうしているんだろう。それはつまり、彼女はデングウイルスに似たウイルスに対して免疫を持ってない、もしくは本能的に忌避していて防疫を行ってるということを暗示していた。


これは重要な手がかりだ。元々この環境の中で発生、生息している生物なら、ウイルスに免疫を持たないものは自然に淘汰されている筈。となれば、ひそかはウイルスに免疫を持たない状態でここに住み着くようになった可能性が高い。そうなるとますます自然発生した生物ではない可能性が高くなるということじゃないかな。


また、この環境で生きるには不自然なまでに白い体毛をよく見ると、根元の方は茶褐色をしていて、そちらが本来の色だと分かった。また分析の結果、虫除けの成分と一緒に漂白剤に似た成分も検出されたので、体に塗った<何か>の作用で体毛が白くなっているっていうことのようだ。


俺の宇宙船に装備してある簡易分析機でもこのくらいは分かる。何しろ、惑星の資源というのは鉱物系のそれだけじゃなく、生物資源も重要なお宝だからな。医学的に値打ちのありそうなそれを見付ける為にもこの程度の分析器は必要ってことなのさ。


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