第9話 零戦44型VSヘルキャット 

 日本海軍の第一次攻撃隊は、敵艦隊の30海里手前で敵機に遭遇した。

 「来たか!」と空母「翔鶴」艦戦隊長枝野俊之少佐が言った。

 「制空隊、突撃せよ!」と枝野が言った。

 枝野の指令で制空隊の零戦44型60機次々に機首を上向け、エンジン・スロットルを開き、上昇を開始した。

 零戦のスマートな機体がグイグイと高みに引き上げられて、グラマンF6F「ヘルキャット」の零戦とは対象的なごつい機体が拡大し、目の前に迫ってきた。

 危険を感じ、枝野が機体を右に振った直後、ヘルキャットが放った弾丸が枝野の機体の左端をかすめた。

 枝野は左下方で零戦を追うことに夢中になっているヘルキャットに狙いを定めた。

 危険を察知したヘルキャットが急降下で逃げようとするが、今、枝野が乗っている零戦は最高時速592キロメートルであり、歴代零戦最速だ。

 ヘルキャットと零戦の距離がみるみるうちに詰まり、照準器の白い環の中でヘルキャットのごつい機体が膨れ上がる。

 「一機目!」と枝野は叫び、発射把柄を握った。

 零戦の機首から三条の火箭がほとばしった。

 ヘルキャットが装備する12.7ミリ機銃のそれよりも遥かに太く、逞しい火箭がヘルキャットに殺到した。

 その火箭がヘルキャットに突き刺さった直後左翼が折れ、ヘルキャットが落ちていった。

 僚機が落とされ、怒り狂ったのか、近くにいるヘルキャットが反転してきたが、枝野は相手に射撃の機会を与えずに、一連射を放った。

 枝野が放った一連射は反転してきたヘルキャットの風防を砕き、中を真っ赤に染めた。

 「さすがは44型だ」と枝野が言った。

 今回の海戦では、全航空戦隊合わせて160機の零戦44型が配備されている。

 この零戦は航続距離以外の全ての性能で零戦32型や21型を上回っており、今までほとんど役に立たなかった7.7ミリ機銃が廃止され、20ミリ機銃3門に変わった。

 さらに、燃料タンクの内側に燃料漏洩防止用のゴム型取り付けられるなど、従来の零戦では軽視されがちだった防御面についても配慮がなされている。

 枝野はこの機体に初めて乗ったに、「この機体ならヘルキャットに勝てる」と内心思ったが、その評価に誤りはなかったようだ。

 枝野機がさらに一機のヘルキャットを落とした直後、艦爆隊が加速した。

 空母を中心とした輪形陣が見えてきた。


 空母「隼鷹」艦爆隊長大島隆彦少佐は敵の輪形陣が見えてきた直後、攻撃目標を下令した。

 「飛鷹隊は敵巡洋艦、隼鷹隊は敵空母1、2番艦」

 飛鷹隊の攻撃目標を敵空母や敵戦艦では無く敵巡洋艦にした理由は飛鷹隊の艦爆隊が既に4機(出撃時5機)しかいなく、大物を狙っても効果が薄いと思われるからだ。

  

 5分後

 「隼鷹隊攻撃開始!」と大島が言った。


  

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る