第8話 第一次攻撃隊発進

 「給油艦、反転します」旗艦「翔鶴」の艦橋に、見張り員が報告を上げた。

 第三艦隊隷下の各艦は、この日の夜明け直後より、洋上給油を実施している。トラック泊地からガダルカナル近海までは長大な距離があるため、洋上給油が必須なのだ。

 「索敵機からの報告は来たかね?」と第三艦隊司令長官の小沢治三郎中将が聞いた。

 今回の作戦から洋上索敵には新型偵察機「彩雲」が使われている。「彩雲」は最高時速604キロメートルを誇っており、米海軍の新型戦闘機「ヘルキャット」に遭遇したとしても振り切れる可能性が十分にあると目されている。 

 「残念ながら落とされた可能性大です。」と航空参謀の高橋赫一大佐が言った。 

 「今しばらく待つしかあるまい」と小沢が言った。 

 

 「風に立て」と、空母「翔鶴」艦長阪直美大佐が言った。

 十分前、瑞鶴三号機から「敵機動部隊発見、大型空母2、小型空母2」という通信があったのだ。

 この通信を受けて第三艦隊司令部は即座に「攻撃体発進」を命じたのだ。

 第一次攻撃隊は六空母合計で120機。


 直衛専任艦「龍鳳」艦戦隊第二小隊長、佐藤永吉中尉は息を飲んだ。 

 佐藤機の500メートルほど上空を星のマークを胴体に書いた機体が飛んでいたのだ。


 「let's go!」という掛け声が第二二任務部隊旗艦「サラトガ」の艦上に轟いた。「サラトガ」からは36機「ホーネット」「エンタープライズ」からは40機ずつが第一次攻撃隊として発艦した。さらに「エセックス」「バンカーヒル」からも合計90機が発艦した。第一次攻撃隊は合計206機。


 「こんな攻撃隊は初めてだ」と第一次攻撃隊の総指揮を取る空母「翔鶴」艦戦隊長枝野俊之少佐が言った。

 第一次攻撃隊120機の内、実に105機が零戦44型で占められており、残りの15機が99艦爆改という編成になっている。

 このような編成は初めてであり、枝野は出撃前に「翔鶴」艦長の阪大佐に、このような編成にした理由を聞いた。

 そうしたら、「詳しいことは俺も知らんが、どうやら小沢長官の発案らしいんだ。」と阪は言った。

 阪大佐からこう聞いたとき、枝野は内心とてもワクワクした。

 帝国海軍きっての智将と呼ばれており、「帝国海軍の諸葛孔明」と言われる小沢長官の発案だというのだワクワクするのも当然と言える。

 そして、阪大佐とこの会話をした後に格納庫を見回ると艦戦が大半を締めており、小沢長官が考えていることが枝野にもはっきりと分かった。

 小沢長官は敵空母では無く敵の艦戦を狙っているのだ。

 そして敵艦戦を減殺し、さらに、敵空母から放たれる攻撃隊を多数の零戦で向かい討って敵艦爆と敵艦攻も減殺し、その後に、何らかの方法で敵空母を葬ろうと考えているのだ。 

「ミッドウェーで沈んだ4空母の仇討ちだ」と枝野は言った。

 

 

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