第2話 艦政本部の考え

 「110号艦は建造中止。雲龍型空母も3002号艦を除き建造中止。」海軍艦政本部総務部第一課長の庭田正三少将は、連合艦隊主席参謀の源田実大佐にその旨を伝えた。

 ミッドウェー海戦が始まる少し前、源田は作戦参謀沖龍之介中佐や、その他参謀数名と、協同して艦艇の建造や改装に関する要望書を作成し、山本五十六連合艦隊司令長官の裁可を得て、艦政本部に提出した。 

 その回答が今日来たのだ。

 110号艦とは、現在横須賀海軍工廠で建造が進められている大和型戦艦の3番艦のことだ。

 既に完成率は五割を超えており、順調に建造が進めば昭和19年の中旬頃には「大和」「武蔵」とともにその雄姿を海に浮かべていたはずだが、ミッドウェー海戦で大敗北を喫してしまい、空母の数が不足している現在、完成の暁には、世界最大最強の戦艦となるはずだった110号艦は、ドックを塞ぐだけの邪魔者扱いされていたのだ。

 「戦争が激化してきた現在、60000トンを超える巨艦をのんびりと作っている暇はないらしいな」と艦政本部の田代清武大佐が言った。

 田代は明らかにイライラしていた。

 大和型戦艦を建造するとなれば、艦政本部も、建造計画の作成、ドックの調整、資材の調達等で膨大な業務をこなさなければならない。

 それらが全て無駄に終わったとなれば田代としても憤懣を感じずにはいられないのだろう。 

 「雲龍型空母の建造も一隻に留めるようだが、代わりにどのような空母を建造するのですか?」と源田が庭田に聞いた。

 「飛鷹型空母の設計を簡略化し、各所に小改良を施した改飛鷹型を4隻建造する予定です。」と庭田が言った。

 「さらに祥鳳型空母を直衛専任艦にした龍鳳型空母も現在3隻が建造中であり、1番艦の龍鳳が1ヶ月後に竣工予定です。」と庭田が続けて言った。

「130号艦についてはどうなりましたか?」と沖が聞いた。

 「130号艦は予定通り建造を進める。この艦は110号艦よりも早く完成する予定だし、様々な新基軸を盛り込んでいるから、中止するにはもったいないからね。」と庭田が言った。

 「呉工廠や長崎海軍工廠で翔鶴、瑞鶴、隼鷹の改装も進んでいますな。」と田代が思い出したように言った。

「これら3空母の改装工事は3ヶ月後には完了する予定です。」と庭田が田代の発言を引き継いで言った。

 「予定通りに建造計画が進めば来年の4月頃には我が軍は9隻、再来年には15隻以上の空母を使う事ができますな。」と源田が満足そうに言った。

 その時、伝令兵が息を荒げながら部屋に入ってきた。

 「何があった?」と庭田が聞いた。

 「むっ、陸奥が大爆発を起こしました!!」と伝令兵が言った。

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