第3話

朝から気分が悪く、珍しく吐き気なんかもして…

でも 誘われて出かけた。


―— 無理しなくていいよ。

友人はそう言ったが

―—お腹すいてるだけっしょ?

私はそう言って車に乗り込んだ。


―—でも移動中は寝てると思う。 

―—あはは。いつもの事じゃん。


宣言通り眠りながら名古屋についた。

あいち航空博物館だ。


スピットファイアが銀色に輝いていた。


私は飛行機はわからない。

第二次世界大戦中のイギリスの戦闘機で…と

友人が説明してくれるが、最初の言葉しか私には理解できない。


それでも、老体をいたわりながら

そして、各地で歓迎されながら

世界一周を目指す小さな機体。

それが、争いのためではなく

夢を運ぶために頑張っているその姿と

それを応援する人々の愛情を見ていると

その輝きは全身にまとっているステンレスの反射光ではないとわかる。


良いものを見せてもらった。


過去に数多の悲しみを生み出した機体だとしても、

もう、責めることはやめよう。

任務を誠実に果たしただけだ。

どうすることもできなかったんだ。

そして、ほら。

今もこんなに頑張っている。

それだけで、

それだけで、いいよ。

ね。



ほんのちょっと優しくなれた気分で、

でも吐き気は収まらず、

優しい友人の車の後部座席で私は5時間寝ていた。

友人は時折暴風雨に見舞われながら5時間運転していた。


今日も友人と世界のやさしさに包まれた

良い一日だった。

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