第2話2人の過去、弟弟子か妹弟子か

 2人が最初に出会ったのは、13才になる直前、ティオティワカン王国であった。国王一家、親族、廷臣、大貴族が居並ぶ中、国王の言葉を直々に受け、感謝の言葉を返した。その時、その儀式の主賓が、セスタ王女とテルシオ王子と彼の姉、正室の王女、オチァだった。テルシオは姉のおまけというところだったが。後ろにと言う彼を姉が、自分の隣に並ばせたのだ。この時、セスタは緊張でテルシオのことなどは気がつかなかった。他方、緊張してはいたが、テルシオは彼女をチラッと見て、可愛い少女だと思ったが、それだけだった。

 異民族や魔族の大々的な侵攻や人間や亜人間の複雑な抗争が一段落し、諸国は大国小国の別なく、王族、有力貴族を相互に送り、1~3年間程度滞在させるようになった。勿論受け入れる側も丁重に待遇する。人質というわけでもなく、相互の友好関係の確認ということであった。

 ティオティワカン国王との謁見が終わった翌日、早々にティカルのオチァ王女から表敬訪問の申し入れがセスタの元にあった。断る理由はないので受諾した。彼等は、王宮内にそれぞれの居室、大抵は独立した棟だった、が与えられていた。その翌日、彼女は弟を連れて来訪した。広い応接間に招かれた二人の前に、女性騎士を後ろに従えたセスタ王女がいた。オチァは、セスタよりかなり背が低かったが、平均よりは高いほうだった。双方儀礼的な挨拶をし、セスタは長椅子に座るように勧め、オチァがそれに従うと自分も座った。それからしばらく、やはり儀礼的な会話になった。セスタは緊張して、どこかぎこちなかったが、オチァは3歳年上なだけに物慣れた対応だった。テルシオは、護衛のように直立不動で姉の後ろにたって、セスタ付きの 女騎士に対峙していた。オチァは、自然な動きでセスタの居室の応接間の広さと装飾などをざって観察した。そして、自分達の部屋と同等のものだと判断した。それを確認しに来たのだ。それは、国の威信がかかっていることである。コパンの正室の王女より貧相な建物を、ティカルの正室の王女たる自分が与えられてはならないと、彼女は思っていたからである。それから、さも今思いだしたかのようにして、

「セスタ様は、我が弟のテルシオと同い年とか。私同様、親しくしていただければ嬉しく思います。テルシオもここに座らせていただきなさい。」

 この時になってようやく、セスタは、みごとな金髪の姉と異なる黒髪の男の存在に気がついた。

「私より背が高い。」

 彼に座るように促した時、彼に対しては思ったのはそれだけだった。テルシオの方は、あらためて銀髪のよく似合う美少女だと思った。が、そこまでだった。姉の護衛だという意識のほうが強かった。姉は正室の王女であり、彼の母は側室である。ただ、オチァの同腹の兄である王太子の穏やかな性格もあって、テルシオは酷い扱いを経験したことはなく、その中でもオチァとの関係は特に良く、やや彼女に振りまわされる傾向にあったが、彼にとっても、それが常に悪い結果ではなかったことから、彼女と一緒にここに来ていることは心から嬉しいと思っていた。ただ、それよりも、彼にとっては、あくまでも武門の家の者として恥ずかしくない態度をとることを母親から厳しくしつけられていた。王家などよりはるかに古い家柄、「はるかに」は彼も母親も少し懐疑的だったが、とにかく、より古いことは確実だった、の精神を受け継ぐことが彼に課せられていた。

 その彼が、師としてついたのは、ソウコウという思想家だった。名だたる武芸家であるが、その武芸に精神性を語らせない、人を活かす剣などとは言わない、冷徹な技術として徹底してかんがえていた。その一方で、精神を高めることの必要性は強調するが、あくまでも武芸を学ぶことで得られるものではないとしている。だから、並行して学問、思想を語り、教える。彼の思想は、平等と平和と現実、公と私の利益、快楽(精神的なものをより重視するが、肉体的なものも否定しない)、立法主義等多様なものを含みつつ、それ故に、多様な技術、分野を探究し、教えてもいる。入門者の出自は問わず、礼金もあまり関心がない。地位も富も関心がなく、必要な食料さえあれば満足し、誰にも求めれなくとも、戦争を止めさせるために、真理を求めて、千里の道も遠しとしない。諸国はしかし、彼の持つ技術、知恵を求めて、彼がやって来ると迎え、彼にいろいろいろと依頼し、私塾を開くことを許している。ただ、階級の上下なく、あまり立身出世の役に立ちそうにもないことから、教えを乞いに来る者は多くない。貴族も、庶民も、立身出世を学問や武芸に求めるからである。テルシオは、ティカルで彼の弟子から教えを受けていたため、彼がティオティワカンに来たと聞くと、すぐにその元に出向いた。そこで彼は、セスタ王女と鉢合わせした。彼女の事情も彼と同様だった。ただ、彼女の場合は個人的に武芸が大好きで、得意だったからであるが。そこから二人の間で、兄妹弟子関係か姉弟弟子関係かの言い争いが始まった。師への傾倒が深まれば深まるほど、その問題は二人にとって後に引けないものとなった。ただ、テルシオは直接は、セスタが言い出しても、ことさら争わない姿勢をとったが、それがまた、セスタを苛立たせた。

 ソウコウへの弟子入初日のことは、当然テルシオは、姉に報告した。

「ほほほ…。」

と彼女は大笑いをした。それが、収まると、彼女は、ソウコウの私塾でのセスタとのやり取りを、毎回報告するよう弟に命じた。

 セスタとテルシオの関係は、悪くはならなかったが、同門の良き好敵手、仲間というところだった。

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