第276話 緊急事態

 兵士はクランからの書状を持ってきた。


 受け取り次第至急確認せよと封筒に書いてある。


 一旦会議を中断して、私は中の書状を取り出し読んだ。


「!!」


 手紙の内容を見て、私は驚き目を見開いた。


「な、何が書かれてたのですか?」

「パラダイル州とサイツ州が同盟を結び、ミーシアンへと攻め込んできたらしい。敵軍はパラダイルに集結していて、カナレではなく北側からミーシアンに侵攻してきたみたいだ。ミーシアン北にある郡の、ルンド郡が敵からの攻撃を受けていて、至急軍議を行うらしい。軍議でどう動くかは決め、追って指示を送るので、それまで州境の防備を固めた状態で待機せよとのご指示があった」


 私が手紙の内容を説明した。

 家臣たちは皆驚いている。


「パラダイルとサイツの同盟ですか……これはかなり厄介ですよ……ミーシアンは人口が多く、兵力も高いですが、それでも二州を同時に相手にするとなると、間違いなく戦力的に不利です」


 リーツがそう言った。

 パラダイルとアンセルは同盟関係にあるので、これを機に参戦してきてもおかしくはない。そうなるとだいぶまずい状況になる。


「そ、それにサイツ州がパラダイル方面から攻めてくるのは、かなり予想外なんじゃないの? クラン様が事前にサイツ軍の動きを察知できていれば、対処できるけどそうじゃなかったら、強襲されて城を落とされちゃうかもしれないよ」


 ロセルは青ざめた表情をしていた。

 パラダイルは外敵も多い州だし、食料も不足しているので、他州を侵攻するということはあまりできない。そのため、パラダイルと領地を接しているルンド郡の防備を、比較的薄くしてしまっている可能性はある。

 サイツとの同盟が成ったとなれば、食料の援助はある程度貰え、さらにパラダイルはサイツ州への警戒をなくすことが出来るので、防備に使っていた戦力を侵攻に回すこともできるので、話は全く変わってくるだろう。


「クランの奴、裏では色々根回しして独立とか言ったのかと思ってたけど、違ったみたいだねー」


 ミレーユがあきれた口調でそう言った。

 確かに独立する以上、周辺の州が対ミーシアンのため同盟を組むという可能性は高かったはずだ。クランは特に対策するわけでもなく、独立を宣言してしまったようだ。

 もしかすると、手を組めるほどサイツとパラダイルは良好な関係ではないと、高を括っていたのかもしれない。

 サイツ総督に裏をかかれた形になったようだ。


「軍議を行うってお話でしたが、わたくしたちも行かなくて良いのでしょうか?」


 リシアが質問をする。


「今から僕たちが向かっても時間がかかりますし、そこまで軍議の開催を待つことは難しいでしょう。それにカナレの防備を固めることも重要ではありますし。隙を作れば侵攻を仕掛けてくる可能性もあります。パラダイルに兵を集結させているとは言え、サイツ内の全兵を送り込んでいるわけではないでしょうし」


 リーツがリシアの質問に対して返答する。リシアは納得したようだ。


「サイツの防備が薄くなっているのは間違いないんだし、この隙を狙って落としに行くのもありだね〜。ちょうど新兵器も出来るし、どのくらい使えるか試してみたいじゃない」


 ミレーユがニヤニヤしながらそんな意見を言っている。


「駄目に決まってるだろ。命令違反はできん」


 冗談を言っているのだとは分かったが、私は強めの口調で否定した。

 えー、絶対行けるのになー、とミレーユはニヤニヤしながら言う。


「今攻めるのは論外ではありますが、今後国王陛下からサイツを攻めよと命令が降る可能性はありますな。聞くところによると、カナレは前回の戦で大功を挙げたとか。そのカナレがサイツに攻め入ったとなれば、敵軍も対処せざるを得なくなるので、攻め手に回している兵をいくらか戻す可能性は十分にあり得ます」


 マイカがそう言った。

 確かに軍議でそう言う戦略を取ると結論が出ることは考えられる。ただ、カナレは攻め側に回るにしては、単純に兵の数が足りていない。

 野戦はまだいいが、城攻めをするとなると、大勢の兵が必要になってくる。

 もしかすると、飛行船の力で何とかなるかもしれないが、新兵器をそこまで信じきるのは良くないだろう。

 攻勢を命じられると、厳しい戦いを強いられることは間違いなさそうだ。


「また戦が始まってしまうのですね……」


 リシアが悲しげな表情でそう呟いた。

 場合によっては今回も私が戦場に赴くことになるだろう。

 不安もあるが、ローベント家の未来のため絶対に生き残らないといけない。


「今のところは陛下の命令通り、カナレの防備を固めていつ戦が起きても問題ないよう備えることにする。また、シンの飛行船についても、急ぎ戦に出られるよう兵装を完了させてくれ」


 私は最後にそう指示を出し、会議は終了した。

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