第275話 飛行船の運用

「今回は素晴らしいものを作ってくれた。君に投資して心より良かったと感じている。ありがとう」


 飛行船から降りた後、私はシンにお礼を述べた。


「い、いや〜、それほどでも。こちらこそ、わしの力を信じてくれて、おおきにです。これからもっと凄いもんを作るんで、今後もよろしくお願いしますで!」


 シンもお礼を言ってきた。


「アルス様、この飛行船は、すぐに二隻目、三隻目と作っていくべきだと思います。費用はかかるでしょうが、それだけの価値があります」


 リーツがそう提案してきた。

 これに関しては言われるまでもなく、私もそう思っていた。

 この飛行船が数隻あれば、敵軍が攻めてきても負けることはないだろう。


「わしとしても何隻も作りたいけど、この工房では新しい船の開発を進めたいと思っております。さっきも言った通り、もっと大きめの船を作りたいですし、この船にしたってもっと改良する点がぎょうさんありますからね」

「そうですね……それならば新しく造船所を作るのはどうでしょうか? 船の製造はそこで行って、シン殿はこちらで開発を行うという形にするといいと思います」

「それはええですな。どのみち、この工房は船の製造だけ考えると、ちょっと非効率やし」


 確かに飛行船の製造量を増やすとなると、造船所は作らないといけないな。金はだいぶかかるだろうが。


「とりあえず造船所の建設や、飛行船の運用方法など含めて、皆を集めて会議したいと思う」

「ええ、重要な事項ですのでそれが良いですね」


 そう決めて、私たちは工房を後にした。





 数日後。

 飛行船について会議をカナレ城にて行った。


 元々カナレ城にいた家臣たち、ランベルクを任せていたミレーユと、補佐役として付けている、フジミヤ三兄弟、それからシンも会議に参加している。


「坊や、体調は大丈夫かい?」


 とめずらしくミレーユが気遣うように言ってきた。


「ああ、私は大丈夫だ」

「なら良かったよ」

「ミレーユはランベルクで真面目に仕事をしているか?」

「何だいその質問。真面目にやってるに決まってるじゃないか」

「リクヤ、本当のところどうなんだ?」

「最近はちゃんとやってますよ。まあ、酒を大量に飲むところは相変わらずですけどね」

「そうか」

「おい、なんでリクヤに聞くんだ。アタシの言葉が信用できないのかい?」


 ミレーユは不服そうな表情を浮かべる。


「まあ、しかし、思ったより早く完成したね飛行船。アタシも飛んでるところが早くみたいもんだね」


 ミレーユは最近までランベルクにいたので、飛行船が飛ぶところを見てはいないようだ。


「その飛行船とやらは誠に空を飛べるのか? 私には信じられんのだが」 


 マイカは疑いの表情をしながらそう言った。


「信じられないような発明だから、見てないものは疑ってもおかしくない。会議が終わったら、また皆の前で飛ばして欲しいんだが、大丈夫か?」

「別にええけど。飛ばすだけならそこまで燃料も消費せんしな」


 シンは承諾した。


「それでは会議を始める」


 私はそう言って会議を始めた。

 最初の議題は飛行船の運用方法だ。

 話し合いの末、やはり軍事用に使うべきと結論が出る。

 今のままで軍事用としての運用は難しいが、改造すれば問題ないようだ。

 触媒機を船底の辺りに搭載して、地上を攻撃できるようにする。

 大型の触媒機は重量などの関係で搭載は難しく、中型のものになるようだ。

 シャーロットなら中型でも高威力の魔法を使用可能だが、ほかの魔法兵は中型だと若干火力不足である。今後は大型も積めるよう改良を期待したい。


 その後は、造船所の建設についても話し合うことになった。


 街中では土地が足りないので、少し離れた場所に作ることになった。

 結構費用がかかりそうである。

 造船所を作るのにも、飛行船を一隻作るのにもかなりの金がかかる。

 飛行船の運用には風の魔力水が必要なので、集めるためにも金を使う。


 カナレは最近景気が良く、税収も上がっているが、費用的に飛行船を大量に作るのは難しいだろう。


「提案なのですが、クラン様にお話しして、お金を投資していただくのはどうでしょうか?」


 リシアがそう発言をした。


「飛行船はとても魅力的なアイデアですし、あの方なら興味を持っていただけるかもしれませんわ」

「確かにクラン様ならお金は誰よりも持っているし、飛行船にも興味を示すかもしれないな」


 クランはミーシアン一の商業力を持つ都市センプラーと、首都であるアルカンテスの領主だ。

 相当な大金持ちなのは間違いない。


「そうですね……飛行船の開発に成功した以上、クラン様へはいずれ報告はしなければいけませんし、その際に投資して欲しいと話を持ちかけるのもいいかもしれません」


 リーツがそう言った。

 主君であるクランに飛行船のことを隠していることがばれたら、謀反の恐れありとして処罰されるだろうからな。

 飛行船をクランにバレず使うということは、流石に難しいだろうし。


 クランに飛行船のことを伝えるのは少し不安はある。

 戦を積極的に行うつもりはないと言っていたが、それが本心であるとは限らない。

 一気に飛行船を量産し、サマフォースを統一するための戦を行うかもしれない。

 それであっさり統一できれば、当分戦もなくなるので良いのだが、そう簡単に終わるだろうか?

 飛行船は強いだろうが、これがあれば確実に戦に勝てるというほどではないと思う。

 ミーシアンでは風の魔力石の採掘量が少ないので、貿易がし辛くなれば燃料がなくなって飛行船を動かせなくなるし。


 まあ、不安要素はあるが、現状のローベント家の立場だと報告はしなければいけないだろう。

 これを機に大規模な戦が起きなければいいが。


「投資かー。乗ってくれるかな? 飛行船はすごい発明だし、もしかすると戦をガラリと変えるかもしれないけど、まだ戦で実績を上げたわけじゃない。どのくらい活躍できるかは結局使ってみないと未知数なところはあるし。一度実績を上げてからじゃないと、大きく投資してくれないかもね。飛行船ができたという報告はしとくべきだと思うけど」


 ロセルはややネガティブに見ていた。

 確かにこの飛行船がどのくらい活躍できるかは、まだ未知数である。実績を上げた方がクランを納得させやすいだろう。

 しかし、当たり前の話ではあるが実績は戦がないと積むことはできない。

 サイツは戦力を増強しているようだが、前回の戦で大敗しているカナレを攻めにくいというのは変わらないはずだ。

 しばらく戦は起きないかもしれない。


 そんなことを考えると、会議室に使用人が飛び込んできた。


「会議中失礼いたします! クラン様からの書状が参りましたのでお届けに参りました!」

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