第254話 再勧誘
「クラン様の言葉アルスはどう思われましたか?」
会談を終え、アルカンテス城の廊下を歩きながら、私はリシアと話をしていた。
「どうか……逆にリシアはどう思った?」
私はリシアの考えを先に聞きたくて、そう返答した。
「わたくしは……そうですわね……クラン様は、サマフォース帝国の存在が戦を起こしていると仰っていましたが、本当にそうなのでしょうか? 確かに一理あるとは思いましたが、戦が起きている原因はそれだけではないと思います」
「そうだな……戦に関しては、色んな原因で起こるから、こうすれば絶対に起きなくなる、という方法はないと思う」
「ですわね……そもそもクラン様が本当に平和を望んでいるのか疑問ですわね。わたくしたちを納得させるため、ああ言っているだけで、本当は自分がサマフォース大陸の支配者になることを望んでいるかもしれませんわ」
「その可能性もあるが……あまり口にはしない方がいいな。誰に聞かれているか分からないし……」
「そうですわね。クラン様の真意について確実な事は言えませんわ。ただ、クラン様がサイツ州との戦を回避しようとは思っていないことは分かりましたわ」
「確かにそれはそうだな……」
サイツはカナレを恐れているから攻めてこないだろうと言っていたが、外交を行い、サイツとの融和を進めるつもりがあるような事は言っていなかった。
前回の戦では確かに上手く戦う事が出来て、サイツを退けることが出来た。
しかし、次もそうなるとは限らない。
また、クランがサイツ侵攻を開始したら、もちろんカナレも兵をあげなければいけないだろう。
もし、サイツに侵攻し、その戦に敗北した場合、兵力を大きく失う。その状態でサイツがカナレ侵攻を始めたら、流石に負ける可能性が高そうだ。
……まあ、あまりネガティブなことを考えすぎても良くはないか。
クランは有能な人物だし、勝ち目のない戦は流石に起こさないだろう。
結局カナレが州境にある以上、戦の脅威は常に存在する。
攻めてこられても簡単に負けないよう、これまで通り軍事力の強化を進めていく必要がありそうだ。
それから私たちは、市場へと向かった。
ブラッハム、ザット、ファムも同行している。
目的地はキーフの店だ。
初対面以降、何度かキーフの下には訪れていた。
ただ、まだ家臣になるという返事は貰っていない。
家臣になれば、彼の生まれ育ったアルカンテスから離れて、カナレで暮らすことになる。
簡単に首は縦に振れないだろう。
ただ、明確に断られてはいない。かなり悩んでいる様子なので、可能性がゼロというわけではなさそうだ。
熱心に誘い続ければ、承諾を得られるかもしれない。
「あ、アルス様!」
私が店に近付くと、キーフは私の姿に気付き嬉しそうな表情を浮かべた。
「また来てくださってありがとうございます!」
店には最初に来た時とは別の絵が飾られていた。
「絵は売れたのか?」
「いや、売れないので別の絵にしてみました」
キーフは苦笑いを浮かべた。
彼の絵を買おうか悩んでいたが、今買っても勧誘のためだと思われるだろう。
それに旅費も大量には持ってきておらず、絵を買うと痛い出費になる。
帰り道に、何らかのトラブルが発生しないとも限らない。トラブルが発生した時、お金は頼りになるので、なるべく多く持っていた方が良いだろう。
「でもこの絵も売れませんね〜。やっぱり僕は絵師には向いてないかもしれません」
「そんなことはないだろ。これだけ上手な絵が描けているんだし。売ってる場所が悪いんじゃないか?」
「ありがとうございます。アルス様は僕を家臣に勧誘してるのに、絵について誉めてくるのはなんだかおかしいですね」
キーフは微笑みながらそう言った。
「絵が上手いのは事実だからな。確かに絵師として大成功すれば、君は私の家臣にならないかもしれないが、嘘をついてまで君の絵を貶すつもりはない」
私は本音を口にした。
「そうですね……アルス様はそのような方ではないです……あの、アルス様の目から見て、僕の絵はどう思いますか? 欲しくはなりませんか?」
「欲しくは……そうだな……私はあまり絵を集めたりはしていないからな……」
カナレ城内に絵は何点か飾ってはあるが、いずれも自分で購入したものではなかった。
絵について審美眼を持っているわけでもない。感想を求められても、少しだけ困ってしまう。
上手い絵としか言いようがない。
「リシアはキーフの絵についてどう思う?」
リシアは私より絵については詳しい。
色々とアドバイスが出来るはずだ。
「そうですわね……これはアルカンテスの街並みを描いたんですよね」
「そうです!」
「建物はよく描けてますし、色使いも悪くないと思いますが……言葉は悪いですが、見ていて退屈に感じる絵だなと……」
「う……」
リシアは思ったところを率直に言ったようだ。キーフは若干ダメージを受けたようだ。
「あ、も、申し訳ありません。でも、こういう感じの絵は結構見てきたので……」
「そ、そうですね……平凡ですよねこの絵は……」
「あ、あのアルスの絵は非常によく描けてましたわ。わたくしは大好きでした!」
どうやら私の肖像に関しては、リシアは本当によく描けていると思っているらしい。お世辞で言っているわけではないようだった。リシアの目に私の顔はどう見えているんだ。
「アルス様の絵は想像力を目一杯膨らませて描いたんです……僕はやはり興味を持った対象じゃないと、絵が躍動感を持たないというか……どこか平凡になってしまって……アルカンテスの街並みは好きなんですが、毎日見ているので今更見ても想像力は膨らみませんし」
キーフは悩んだような表情を浮かべてつぶやいた。
「アルス様……僕決めました。僕でよければアルス様の家臣になりたいです!」
いきなりそう頼んできた。
「い、良いのか?」
「はい! やっぱりこの街にいても、これ以上の絵は描けないような気がしてきました。もっと色々な経験をしないと僕の絵は進化しないと思うんです」
「そうか……」
「でも、絵を向上させるために家臣になって、本当に良いのでしょうか? もちろん、家臣になった以上、アルス様から申し付けられたお仕事はいたします」
「大丈夫だ。君の絵は私ももっと見てみたいしな」
「……ありがとうございます!」
キーフは笑顔でお礼を言ってきた。
「しかし、突然決めて大丈夫なのか? 親御さんとかの許可は取らなくても?」
「ああ、僕はアルカンテスにある宿屋の五男なんです。昔からある大きな宿屋なので、跡継ぎとかにはうるさいんですが、五男の僕は放任されてるので、許可は出ると思います」
宿屋の息子なのか。
大きい宿屋ということは、やはりキーフはお金持ちの子なのだろうか。
画材は決して安くはないし、ある程度金持ちの家に生まれないと絵は描けない可能性が高い。
「それなら良かった。改めて頼むが、キーフ・ヴェンジ。私の家臣になってくれるか?」
「はい!」
キーフは元気よく頷いた。
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