第253話 会談

 キーフを勧誘して数日後、クランと面談をする日になった。

 明日は宣言式である。

 アルカンテス城内は、かなり慌ただしい様子になっていた。


 明日は宣言する以外にも、祝宴を開くことになっていた。

 準備は終わっているようだったが、どこかに不備がないか最終チェックを慌ただしくやっていた。


 準備の指示を出していたのは、クランの部下たちだ。

 クランは、貴族たちの対応をしており、準備に関してはすべて部下に任せていた。


 私はリシアと二人で、クランのいる応接室に向かう。


「お待ちしておりました。お入りください」


 応接室の扉の前には執事がいた。

 扉を開けてくれたので、私とリシアは中に入る。


「アルス、そしてリシア、久しぶりだな。遠路はるばるよく来てくれた」


 部屋に入るとクランがこちらに向かって歩きながらそう言った。


 クランはかなり機嫌が良さそうに見えた。


「お久しぶりですクラン様。今回は祝宴にお招きいただき誠にありがとうございます」


 私は礼をしながらそう言った。

 リシアもそれに続き挨拶をする。


「まあ、堅苦しい挨拶はそれくらいにして、かけてくれ」


 クランはそう促した。私とリシアは部屋にあったソファに座る。高級なソファなようで、座り心地がめちゃくちゃ良かった。カナレ城にも欲しいくらいだが、多分これは相当値が張るだろう。


「さて……話がある、という顔をしているな」

「え……いえ、話しというより聞きたいことはあります」


 いきなりクランに言い当てられ、少しドキッとした。

 少し焦りながら返答する。


「なぜこの時期にミーシアンの独立を宣言するか、だな?」


 質問の内容を当てられた。

 クランも馬鹿ではない。

 私の聞きたいことくらいは理解していたようだった。


「はい」


 頷きながら返答する。


「初めに聞きたいが、アルス、そして君の家臣たちはこの件については、賛成なのか反対なのか、どっちだ?」

「それは……」

「正直に答えていい。今回の件は決まったことなので、お主が賛成しようと反対しようと、変わる事はないが、参考までに聞いておきたい」

「私も……家臣たちも、賛成はしていませんでした」

「理由は?」

「やはり時期尚早という意見が多かったです。万が一ミーシアン討伐の軍が編成されると、物量で負けるので勝ち目は薄いですし……戦が起こる可能性も高くなります」

「ふむ、まあ、そういう意見もあるだろうな。ただ、ミーシアン討伐軍は編成されぬよ。討伐軍を起こすのは皇帝家か? 今の皇帝家にもうそのような力はない。サイツやパラダイルは実力不足だ。ローファイル州が現時点では一番強力な軍事力を保持しているが、皇帝家とは対立しているので、協力はしないだろう。ミーシアンが討伐され皇帝家が影響力を強めれば、一番損するのはローファイル州だ」


 クランは現状の戦況について語った。

 ミーシアン討伐軍が起こる可能性は低いと言うのは、リーツたちとも意見が一致している。


「ただ……此度の件が戦の火種を蒔いたと言うのは、間違いなく事実である」


 それに関してクランは否定しなかった。


「アルス、お主は戦は嫌いか?」

「それは……正直に言うと、好きではありません」


 クランは鋭い目つきを私に向けて、質問してきた。嘘は吐けず、正直に返答した。


「……好きな者はおらんだろうな。無論私も好きではない。ミーシアンの独立が短期的には戦の火種を蒔く、それは認めよう。しかし、長い目で見ると独立でもせねば、ミーシアンから戦がなくなる事はない」

「それは……どういうことですか?」

「かつてサマフォース大陸には、七つの国があった。ミーシアン王国、サイツ王国、パラダイル王国、ローファイル王国、アンセル王国、キャンシープ王国、シューツ王国だ。お主もそれは知っているだろう」

「はい」


 一般常識だ。

 まだ幼い頃リーツから教わったのを覚えている。


「サマフォース帝国が出来るまで、この七国で戦が頻繁に起きていたのかと言えば、そういうわけではない。無論たまには起きることもあったが、基本はきちんとした条約を結び、平和を維持していた。アンセル王国が大陸外部の国との貿易で力を蓄えるまでは均衡が保たれていたのだ。しかし、アンセルが力をつけ、大きな戦を起こしてしまった。一時的にサマフォース帝国という統一国家が誕生し平和が訪れたはいいが、それも一時的なものだ、今も戦乱の世になってしまっている」

「サマフォース帝国の存在が戦の原因であると?」

「そうだ。再びサマフォースが統一されても、結局また同じことが起こる。それぞれの州は元は別の国。完全な融和は望めない。平和を維持するには、今まで通り七国が完全に独立する必要がある」

「……ミーシアンは独立をしますが、ほかの州も独立をするのでしょうか?」

「恐らくそういう動きを取る州がほかにも出てくるだろう。まあ、すぐにではないが、数年以内にローファイル州あたりが、ミーシアンと同じく独立を宣言するだろうな。そうなると、ほかの州も次々に同じ行動をとるだろう」


 クランはそう予想した。

 彼の考えは間違っているとも言い切れない。

 とはいえ、それぞれの国が独立状態になるということが、平和の維持に本当に繋がるかは疑問に思う。

 アンセルのように他国と貿易するなどして、力を付けた国は侵略戦争を行うと言うのは、これからも起こる可能性が高い。


 まあ、平和を恒久的に維持する方法など、正直に言って無いだろう。いずれ必ず争いは起こる。

 私が気になるのは、近いうちにカナレで争乱が起こるか否かだ。


「クラン様のお考えはわかりました。しかし、近いうちに戦がまた起こる可能性はあるんですね? 特にアンセルは先ほどの話を聞く限りだと、ミーシアンの独立は是が非でも阻止したいはずでは?」

「それは否定はできんな。確かに皇帝家からすると、ミーシアンの独立を認めれば、権力がさらに落ちていくだろう。ただし、アンセルは皇帝が傀儡となっており、その下で家臣たちが権力闘争をしており、統率力が欠けている。一枚岩になられると怖いが、現状はそう恐れる必要がないだろう。パラダイル州は兵力が少なく、兵糧も決して潤沢な州ではない。仮に攻めてきても十分防衛は出来る」

「サイツ州はどうでしょうか?」

「……サイツは……前回お主が痛い目に合わせた。あれだけやられて馬鹿正直に攻めてくるほど、愚かではあるまいよ。ミーシアンが他の州と戦い、劣勢になれば攻めてくるだろうが、そうならなければ静観するだろうな」

「しかし、サイツは戦力の増強を行なっているようですが……」

「それはミーシアン、というよりお主を恐れている証拠であろう。仮に攻めてきたら今度は全力で援軍を出すので安心するのだ。サイツ単独なら撃退も容易いだろう」

「……はい」


 そう言われてはそれ以上何もいえない。

 納得するしかなかった。


「ミーシアン側からサイツに戦を仕掛けることはありませんか?」


 リシアがそう尋ねた。

 確かにそれは聞いておく必要がある質問だった。


「……それに関しては絶対にないとは言い切れないな。サイツの動きから不穏さを感じた場合は、先に叩くという戦略を取るという可能性はある」


 サイツに戦を仕掛けるという話をクランは否定はしなかった。


「お主の治めるカナレは州境にある。心配する気持ちは分かるが、決してミーシアンが不利になるような状況は作らないよう、戦略を立てておるので、あまり心配する必要はない」

「……承知いたしました」


 納得できない部分もいくつかあったが、これ以上言及すれば、非難しているともとられかねない。

 今後はミーシアン国王となるクランと、あまり関係を悪化させるわけにはいかない。

 私は納得した振りをして、それ以上の言及を避けた。


「承知いたしました。今後はクラン国王陛下のため、尽力いたします」

「はっはっは、そう呼ぶのは明日からにしてくれ」


 話は終わり私たちは応接室を出た。




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