第244話 キングブルー
「こいつが城の隅で震えてたから、拾ってきたんだ」
キツネ……のような動物を拾った経緯を、クライツが簡単に説明した。
毛は青だが、それ以外は私の知識にあるキツネと完全に一致している。
まあ、私が知らないだけで、地球にも青い毛のキツネはいるのかもしれない。
転生してから様々な動物を見てはきたが、キツネは初めて見た。カナレ郡にはキツネはいないのだろうか。
転生した時、翼の生えた犬を見て驚いたが、このキツネは毛の色以外に変わった点は、ぱっと見なさそうだ。
「見たことない動物ですわ……アルスは知っていますか?」
「多分キツネという動物だと思うが……聞いたことないか?」
「キツネ……初耳ですわね」
リシアはキツネを見てそう言った。
やはりカナレ郡でキツネは珍しいのか?
「でも、野生動物にしては大人しく抱っこされてますわね」
「というより、どこか苦しそうじゃないか? もしかして病気?」
キツネの様子を見て私はそう思った。
息も荒いし、どこか小刻みに震えている。
明らかに普通ではなかった。
「多分この子お腹減ってるんじゃないかな?」
レンがそう言った。
確かにその可能性もあるな。
一旦何か食べさせてみれば、元気になるかもしれない。
「でもこいつ何食べるんだろう」
クライツが首をかしげる。
そういえばキツネって何食べるんだろうか? 確か雑食だったような……
でも、それはあくまで地球のキツネの話なので、この世界だとどうかは分からない。
肉しか食べない可能性もあるし、逆に草食である可能性もある。
「とりあえず厨房で食材をもらってきてみましょうか。人間の食べ物の中にも、食べられる物があるかもしれません」
リシアがそう提案する。
「何を食べるか分からない以上、それしかないか。早速貰ってこよう」
長時間このままにすると命が危ないかもしれない。私はすぐに厨房に向かう。
「わたくしも手伝いますわ」
リシアが付いてきた。
レンとクライツも行くと言ったが、二人にはキツネの様子を見てもらうことにした。
厨房に到着。
料理人たちから肉、野菜、ミルク、卵などいくつか食材を貰った。
量が多かったので、リシアもいくつか持ってくれた。
急いで戻る。
食材を与えてみる。
ミルクに反応を示し、ごくごくと勢いよく飲み始めた。
「おお、飲んでる!」
「ミルクが好きなんだね!」
クライツとレンが嬉しそうにキツネの様子を見る。
持ってきた分はすべて飲んだ。
腹が減って元気がなかったという予想は、当たっていたのかもしれない。
飲み干した後、キツネは目を閉じて眠りについた。
「寝ちゃったよ!」
「腹が満たされて眠くなったのか……このまま外で寝かせておくのも可哀想だし、屋内に運ぼう」
「うん!」
私たちはキツネを屋内に運び込む。
メイドたちの力も借りて、キツネの寝床を作り、そこにキツネを寝かせた。
「元気になってくれたらいいな~」
レンがキツネを見てそう言った。
しかし、このキツネは、どこから入ってきたのだろうか。
そもそも助けて良かったのか?
現実のキツネはそこまで危険な動物ではない。
だが、この世界のキツネがどうかは分からない。
弱ってたから今回は何もされなかったが、元気になったら狂暴化して襲い掛かってくるかもしれない。
毒を持っている可能性だってある。
寝ている姿を見る限り、可愛いだけでそんな事はないとは思うのだが……
たくさん本を読んでいるロセルなら、この世界のキツネがどんな特徴を持っているのか知っているかもしれない。
聞いてみた方がいいかもしれないな。
キツネの特徴を尋ねるより、このキツネを直接見てもらった方が判断し易いだろう。
私はロセルをこの部屋に呼ぶことにした。寝床作りを手伝ってくれたメイドに、ロセルを呼んできて貰うように頼む。
数分後、ロセルが部屋にやってきた。
「な、何それ……?」
キツネを見てロセルは震えていた。
ロセルも知らないのか?
それとも危険な動物だった?
「城に迷い込んでいた動物なんだが……」
「あ、そうなんだ。ペットにしたって言うのかと思ったよ」
ロセルはほっと胸を撫で下ろした。
「飼うのはまずいのか?」
この世界のキツネは、危険な動物なのか?
「まずいよ。俺、動物苦手なんだ」
かなり個人的な理由だった。
ロセルは猟師の息子だったはずだが、動物苦手なのか。
「あ、今、猟師の息子なのに、動物苦手なのか……って顔したね!」
鋭い。そんなに顔に出ていたのか?
「猟師だから動物が可愛いだけじゃないことをよく知ってるんだよ。大体、何考えているのかも分からないし、突飛な行動したりするから行動が読めないし……とにかく苦手なんだ。馬に接するのは慣れてきたけど、ほかの動物はやっぱ嫌だ」
ロセルは早口でまくしたてる。
相当動物が苦手なようだ。
「動物が苦手ってだけで、このキツネが危険があるとかってわけではないんだな?」
「そりゃそうだよ。この辺りじゃキツネって珍しいけど、でも特別危険ってわけじゃないよ。まあ、油断したら噛まれることもなくはないけどさ。それは犬とかも猫とかも一緒だよね」
ロセルの口ぶりだと、前世のキツネと大きな差はないようだな。考えすぎだったようだ。
「……でもこのキツネ毛が青いって珍しいね…………ん? そういえば、毛の青いキツネについて前に読んだ記憶が……」
ロセルはしばらく考え込む。
何かを思い出そうとしているようだ。
「キングブルーだよ、このキツネ!」
「キングブルー?」
「成長したら馬くらいのサイズになるキツネで、たぶんこいつは幼体だよ。動物にしては非常に賢く、走る速度は馬並みに速いらしんだ」
「う、馬並み? それはデカすぎないか?」
予想以上の説明に私は戸惑う。
しかも、このキツネはまだ幼体?
私の知ってるキツネの通常サイズくらいはあるのだが。
「幼体ってなんだ?」
「赤ちゃんってことよ」
クライツの質問にレンが答える。
「へー、こいつ赤ちゃんなんだ。だからミルクが好きなんだな〜」
返答を聞いたクライツがそう感想を言った。
「成長したらそれだけ大きくなって、危険はありませんの?」
「基本キングブルーは雑食でお肉とかも食べるけど、性格は温厚で、人間に危害を加えることは少ないようだよ。と言っても、襲ってきたら危険なのは間違い無いけどね」
リシアの質問にロセルが返答した。
「例外もあるけど、人間にはあまり慣れないみたい」
「えー、じゃあ飼えないの?」
レンが不満そうな表情でそう言う。
「うん。てか、もし飼えても飼ってほしくは無いけど」
ロセルは頷く。
レンとクライツが少しがっかりしていた。
やはり飼いたいと思っていたようだ。
慣れるなら飼ってもいいと思っていたが、人に慣れないなら仕方ないな。
回復したら野生に帰してやろう。
「でも、珍しい動物でミーシアンにはいないはずだけど。何で城の中にいるんだろうね」
ロセルは首を傾げた。
「本来はどこに生息しているんだ?」
「北の方だよ。ローファイル州とかキャンシープ州とか。でも、南でも生きていけないこともないみたいだけどね。南にいない理由はよく分かってない。天敵がいたからとかかな?」
基本寒い地方に住んでいるのか。
となるとこのまま野生に帰すのは流石に可哀想だ。
それにミーシアンにいない動物がここにいるのは、何やら事件の匂いがするな。
「こいつが何故ここにいるのか理由を突き止めないとな」
「そうだね……で、でもさ、もしかしてそれまでこのキングブルーは城にいるの?」
「調べるんだし、いてもらった方がいいだろう」
「だよね……そ、そうだ。こいつは動物用の鉄格子を用意して、そんで首輪で繋いで、暴れたりできないようにしておこう」
「幼体にそこまでする必要ないだろ……」
どんだけ動物が嫌いなんだ……
でも人に慣れないなら、逃げる可能性が高い。しばらくは逃げられないようにした方が良いかもな。
「じゃあ俺は行くよ。何でそいつがこの城にいたのか、事情がわかったら教えてね」
そう言い残してロセルは去っていった。
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