第243話 キツネ

 フジミヤ家が家臣になってから、数ヶ月が経過し、3月になった。季節は秋。

 少しだけ肌寒さを感じるが、基本的には過ごしやすい気候の季節だ。


 カナレでは収穫祭などの規模の大きな祭りがいくつか開催され、盛り上がりを見せる時期でもある。


 フジミヤ家の三人は家臣になって良く働いてくれた。


 カナレ都市の治安維持に貢献してくれたり、マイカが口をうまく使って、安値で魔力水を仕入れてきたり、まだ重要な役目を任せているわけではないが、着実に任せた仕事をこなしていた。


 それから人手不足に悩んでいたミレーユに、三人を貸してくれとしつこく頼み込まれ、ミレーユの元に送ることに決めた。

 その後、ミレーユにはだいぶこき使われてしまっているようである。


 逆にミレーユは、ほとんどやる事がなく暇になっているようだ。サボりすぎていると、ランベルクの代官からミレーユを外すと、今度脅しておこう。


 フジミヤ三兄弟は、着実にローベント家の家臣として、実績を積み始めていた。


 数か月の間、新たな人材の発掘も怠らなかった。

 様々な人材を発掘し採用はしたが、飛びぬけて有能な人材を発掘することは出来なかった。

 それでも、魔法適性がそれなりに高い人材を何人か、発掘し、魔法部隊を強化することは出来た。

 さらに武勇の高い者を結構発掘することも出来た。

 ブラッハムの精鋭部隊に配備し、精鋭部隊はさらに強化された。


 その反面、知略や政治に長けた人材はあまり多く見つからなかった。

 ヴァージが加入してくれたおかげで、リーツの負担も減った。だが、まだ忙しそうにしているので、早いところ有能な人材を見つけたいところではあったが、こればかりは運もあるし、どうしようもうないな。

 新しい人材をまだまだ発掘したいところではあるが、だいぶ人材が増えて、現在の資金では新しい人材を雇うのは厳しくなってきた。


 カナレがもっと成長すれば余裕も増える。それまでは、しばらく人材発掘は中断しないといけない。


 それから、領地が接しているサイツ州の動きだが、魔力水などを集めたり、兵を増やしたりなど軍事力を上げる動きはしているものの、攻めてきたりはしてきていない。


 もしかしたら裏で何か工作をしている可能性もある。だが、具体的に何かしてきているという証拠は、掴んではいない。

 野盗が増えてきているのが、サイツ州の工作の可能性もある。ただ、今のところ兵士が頑張って野盗に対処しているので、被害は減少していた。


 現状軍事力に関しては、カナレ郡だけでもだいぶ強化されている。ミーシアンも統一されて、クランからの援軍も来やすくなっているので、よっぽどのことがない限りは、サイツに攻め落とされることはないだろう。


 経済も順調で、人口もまだまだ増加してきている。

 カナレ郡の領地経営は、今のところは順調だった。




 3月16日、カナレ城。


 人材発掘を休止してもしかしたら暇になるかもと思っていたが、割と忙しい日々を送っていた。


 最近、ほかの貴族たちから書状が多く届いてきたり、カナレに使者を送ってきたりと、外交でやることが多くなり、領主として対応に追われていた。


 サイツとの戦に勝利するだけでなく、カナレ郡を急成長させたりとしたことで、周囲の貴族たちのローベント家に対する評価がさらに上がったからだろう。


 来客に対する対応となると、領主である私が出ないわけにはいない。準備も色々しないといけないし、休む暇は少なかった。


 今日も対応を終えた後、自分の部屋に帰っていた。


「毎日来客続きだと、少し疲れますわね」

「そうだな」


 と私の隣を歩いていたリシアが、苦笑いをしながら言った。私は頷きながら返答する。

 妻であるリシアも、一緒に来客に対応していた。

 正直私よりリシアの方が気が利くし、喋りや交渉なども上手なので、かなり助けられている部分がある。

 私ももっと成長しないといけないな。


「兄上!!」


 突然、背後から声をかけられた。

 クライツの声だ。

 そもそも私を兄上と呼ぶのはクライツしかない。


 振り返るとクライツとレンがいた。


 二人とも困ったような表情だ。

 クライツが何かを抱きかかえている。

 物ではない。

 青い毛に覆われた動物だ。

 大きな耳、太いもふもふとした尻尾。

 目はつり目。


 キツネのような見た目の動物だった。

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