第242話 暗躍

「ご苦労だった」


 サイツ州、プルレード郡、プルレード砦。


 ボロッツ・ヘイガントは自身が放った諜報員からの報告を聞いた後、そう礼を言った。


 先の大戦はもしかすると、処刑されるか追放されるかしてもおかしくないほどの失態ではあったが、サイツ総督はボロッツに大きな罰は与えず、再びカナレ攻略の任を与えた。


 アルス・ローベントを味方にするのが難しいのであれば、始末するしかない、その考えは、ボロッツもサイツ総督も同じであった。


 敗戦してから、戦力を整えるのと同時に、カナレ郡内で工作をしたり、情報を集めさせたりした。


 カナレにも優秀な密偵がいるのか、中々容易く情報を集めることは出来ず、思ったより情報は少なかった。


 さらに、サイツの家臣になっていた野盗を解雇して、カナレ郡に追いやってみたがそれも上手く対処され、思った以上の被害は与えられない。


(やはり有能な家臣が多いだけあって、中途半端な策は対処されてしまう……戦力を整えて力押しするのも時間がかかりすぎる。それはまずい)


 カナレは、新規の人材を次々と増やしているという事は、報告としてあった。

 まだ家臣になったばかりではあるので、どれほど有能な人物なのかは分からないが、才能あるものをどんどん登用しているのだろうと、ボロッツは確信していた。


 人材が増えているだけでなく、カナレは経済も好調だった。

 ミーシアン州内の状況が良いというのもあるが、カナレは政策一つ一つが合理的で優れており、さらに民を説得できる能力も高いのか、事業の計画が早く進んで、明らかにほかの郡より早い速度で成長していた。


 隣接する郡がそこまで発展されると、サイツ州からしてみれば脅威でしかない。


(すぐにでも仕留めなければ……やはり……暗殺する以外に方法はないか)


 そう結論を出した。


 しかし、暗殺と言っても難しく、ボロッツの家臣たちにそこまでの腕を持つ者はいない。

 なので、外部の者に依頼をするしかないと考えていたが、暗殺者の情報というのは、易々と手に入る物ではない。

 ボロッツは凄腕の暗殺者の情報を入手はしており、家臣たちに調査をさせていたが、中々報告が帰ってこなかった。


 焦った表情のボロッツは、近くにいた家臣に、


「"ゼツ"とのコンタクトはまだとれぬのか?」


 と尋ねた。


「まだ報告は帰ってきていません……」

「そうか……本当にあの情報は正しかったのか?」


 ボロッツは首を傾げる。


 すると、


「ボロッツ様、ご報告があります。"ゼツ"を見つけてまいりました」


 そう慌てた様子で家臣が報告しに来た。


「おお、良く見つけて来てくれた!」


 ボロッツは安心したような表情でそう返答した。


「ぜひボロッツ様と交渉をしたいようで、今砦の応接間に通しております」

「分かった。応接間だな。早速向かう」


 ボロッツは交渉のため、応接間へと向かった。

 アルスを暗殺するための計画が、遂に始動した。




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